「がん」という冒険(48)

「別荘から帰ってまいりました」 金曜祈り会である。姉妹方の視線を集めた私は、照れ隠しのようにこう言った。東映ヤクザ映画で刑務所から出所した高倉健が言っていた。刑務所を警察用語で「別荘」と言うらしい。 先週の金曜、手術のために入院するのを「行…

「がん」という冒険(47)

手術から2日目、この病院の朝食はパンらしい。 トーストされていない食パン2枚。 ただし、温めてはある。 小学校の給食についてきた小袋ジャムとマーガリン。 名糖のパック牛乳――。 その他、塩気も歯ごたえもない野菜と果物…。 「通常食」とある。 もう…限界…

「がん」という冒険(46)

痛みも意識もないうちに手術が終わった。 手術台で目覚めた私は、まるで魔法だと思う。 思えば20年前、娘達を出産した時も、 産声とともに、第一子がこの世に現れ、続いて第二子… それはまるで、手品か魔法のようだった。 手術台の上で時間を聞いた私は、予…

「がん」という冒険(45)

手術前夜、祈りに包まれて眠る幸せを感じた私には、 手術に対する恐れなどない。 と読者は思われるかもしれない。抗がん剤治療の苦しみもなかったのだから、術後の痛みも大したことないだろう…くらいにしか感じていないだろう…と。 そんなことはないのである…

「がん」という冒険(44)

スタートした入院生活は、快適なものではなかった。 病室は304号室の6人部屋、入って右手の扉近くが私のベッドである。 他のベッドはすべてカーテンが閉められ、閉鎖的で挨拶するどころではない。 まず、一律に病院レンタルの甚兵衛の上下というものに着替え…

「がん」という冒険(43)

早々と帰還である。 5日入院、6日手術…であるから、手術から2日しか経っていない。 退院予定は10日だった。 今朝、担当医兼執刀医のよしみドクターが様子を見に来られ、手術跡のチェック、痛みの確認、腕の上げ下ろし…すべて問題なし。 去ろうとするドクター…

「がん」という冒険(42)

出撃である。 寝ているはずのαが起き出して、病院まで行ってくれるもよう。 入院中、コロナ禍で面会はなしである。 パソコンは置いていくことにする。 退院予定は10日。 また会う日まで…(^O^)/

「がん」という冒険(41)

入院前日である。 長女αと回らない寿司屋に入り、「最特上」の寿司を注文した。 最特上…「特上」より1200円高い。 最後にここに入ったのは、2月にαの入試が終わった日だった。 特上が美味しかったので、また来ようと思いながら、入院前日の今日になった。 明…

「がん」という冒険(40)

誰もが知るバラの花、しかし、 バラの花びらが何枚あるか? そんなことを考えた人はあまりいないのではないだろうか? 私が母のように慕う◆姉妹は13種類だかのバラを育てている。先月、銀座でデートした際に、◆姉妹は自宅から摘みたての、 ルージュ・ピエー…

「がん」という冒険(39)

5月が終わろうとしている。 来週には入院、手術…である。 こんな言い方は適切でないかもしれないが、 不気味である。 なぜに不気味かといえば、 平和すぎる。 問題がなさすぎる。 今まで壁のように立ちはだかっていた事柄が、次々になくなる。 たとえば、 ・…

「がん」という冒険(38)

来週の今日は、よしみドクターと手術前の最後の相談が行われる。 30日に術前最後のMRIを撮り、その結果をもとに具体的なことを色々話し合うのだろう。 最後の抗がん剤治療の日、 「今までご家族が誰もお見えになっていませんが」 と前置きされて、ドクターは…

「がん」という冒険(37)

金曜祈り会である。 思えば去年の12月初め、(まだそれほど脱毛していない)前倒しで購入したウィッグをつけてこの祈り会に出た。 黒髪でクセ毛の私が、いきなり茶色のストレートヘアーで登場。(娘達は「別人」と言った)当然、姉妹方は驚く。 「美容院でイ…

「がん」という冒険(36)

そんなわけで、私は気さくな看護師から「美味しい」と教えられた玄米餅をスーパーで見つけたので買った、と話してドクターにウケ、診察室はなごやかである。 全く不思議な病院である。医療法人の基幹病院(大病院)で、こんなふうに担当医とゆっく雑談や冗談…

「がん」という冒険(35)

「治療期間が長かったので、気持ちの整理ができました」 最後(8回目)の抗がん剤治療の日、診察室でよしみドクターと向かい合った私は言った。抗がん剤治療が始まったのが去年の12月1日、半年を振り返って本当にそう思ったのだ。 私の周りのがん経験者はみ…

「がん」という冒険(34)

5月11日は、8回にわたる最後の抗がん剤治療だった。 スタートは昨年、12月1日。前日の11月30日は義母(義母については前回の『がんという冒険(33)』参照)の誕生祝いに、花束をもって浪人生の娘αと義母宅を訪ねた。αの双子の妹βは大学があってNG。ケーキは…

「がん」という冒険(33)

私を「ハゲババア」と称した夫に、いつ入院・手術について話すか? 黙って入院・手術し、終わってから「退院しました~(^O^)」を想像すると笑えたが、そうもいくまい。 この問題が、意図せずに片づいた。 「土曜日(7日)『母の日』のお祝いにケーキを予約…

「がん」という冒険(32)

金曜祈り会であった。 『もし、あなたがたのうちふたりが、どんな事でも、地上で心を一つにして祈るなら、天におられるわたしの父は、それをかなえてくださいます。ふたりでも三人でも、わたしの名において集まる所には、わたしもその中にいるからです』(マ…

「がん」という冒険(31)

がんの宣告から5か月、抗がん剤治療を内緒にして金曜祈り会に出ていた私は、私ががんなどとは夢にも思わない姉妹方を見ながら、 いつカミングアウトするか? 想像してはワクワクしていた。12月、突然ウィッグで髪型の変わった私を、皆(ウィッグと気づかず)…

「がん」という冒険(30)

ない。 神隠しにあったように、ない。 あるはずのお金がない。 呆然となった。 財布に入っているはずの5万円がないのである。 夕方、カーブスの帰りにりそなATMでおろしたはずの5万円。 通帳を見れば確かに50000円おろしている。 5万円はどこへ消えた?? \…

「がん」という冒険(29)

「達者か?」 「達者だ」 4月9日、スーツケースに熊のぬいぐるみ、その他(ごちゃごちゃしたもの)…をもって家を出た双子の妹βが、もどってきた時の最初のやり取りである。 私からはいっさい、連絡を取らず、家を出て初めて電話で聞いた声が、 「もしもし、…

「がん」という冒険(28)

さて、乳房温存(部分切除)か全摘(乳房切除)かである。 どちらを希望するか医師から問われたのには驚いた。 自分で胸を触診してみて、明らかにしこりはなくなっていたから、てっきり温存ですむと思っていたのだ。それを、 全摘の必要性が出てきた。 とい…

「がん」という冒険(27)

前回の診断(3週間前)では、抗がん剤でがんがとても小さくなっていて、私の手術は、ドクターの口調からも 部分切除(乳房温存)>乳房切除(全摘) というふうに受け取れた。 部分切除とは、がんを含む乳腺組織を部分的に切除する手術で、乳房の膨らみは保…

「がん」という冒険(26)

娘αの大学の入学式の翌週、娘βが寮に入るため家を出た。 3月30日から入れるらしいのが、遅々として準備が進まず、大学が始まる直前の入寮となった。 なぜ、遅々として進まなかったかというと、 連日のように寝ていたから。 \(゜ロ\)ココハドコ? (/ロ゜)/…

「がん」という冒険(25)

月一祈り会である。 すべて、疲れた人、重荷を負っている人は、わたしのところに来なさい。 わたしがあなたがたを休ませてあげます。 (マタイの福音書 11‐28) 礼拝や祈り会というのは、どういうところかというと、 主の前に重荷を下ろすところだと思う。 …

「がん」という冒険(24)

1日、3日と雨だが、2日は一日中晴れて、桜も美しかった。 雨だったら悲惨だったろう、と思う。 何が……? 2日は娘αの入学式だったのである。 大学の入学式…。 去年の双子の妹、βの入学式はライブ配信をβが自宅で見ていた(というより流していた→関心がない)…

「がん」という冒険(23)

3月が終わる。 いきなり◎大の3月入試から始まった3月は、4日に発表があり、入学金の手続きなど、やたらあわただしかった。 娘αが行く気になっていた追加合格の◇大学だが、いまだに「合格」の電話はない。 ◎大の「合格者見学ツアー」ですっかり◎大が気に入っ…

「がん」という冒険(22)

春一番が吹いたか~と思ったら、いきなり真冬の寒さになった。 冷たい雨が降り、雪も降った。 今日、6回目(全8回)の抗がん剤治療に出かけた。 天気予報は曇りだったが、気持ちよく晴れていた。 去年の11月から十数回?になるだろうか、病院へ行く日は、い…

「がん」という冒険(21)

寒い冬が去り、暖かい春の到来を告げる風を春一番という。 春風といえばうららかな、心くすぐるような響きもあるが、 私は春風が怖い。 なぜなら、 ウィッグ(カツラ)が吹き飛ばされるから。 \(゜ロ\)ココハドコ? (/ロ゜)/アタシハダアレ? 夜、帽子をか…

入試(10)

終わった。 双子だから一度(一年)で済むはずだったが、たっぷり二年かかった。 それも、これから正念場という、秋も深まった11月に、 私のがん宣告という特別付録がついた。 (-_-)/~~~ピシー!ピシー! 双子の姉αの大学受験である。 3月入試で合格した◎大に…

入試(9)

先週の今日、祈り会へ向かう私の足は重かった。3月入試の◎大の合格発表の日で、私は、 「合格するんじゃないか」 という嫌な予感に包まれていた。別に◎大が名前も知らない怪しい大学、というわけではない。ただ、合格すると大変にややこしいことになる(事情…