「がん」という冒険(21)
寒い冬が去り、暖かい春の到来を告げる風を春一番という。
春風といえばうららかな、心くすぐるような響きもあるが、
私は春風が怖い。
なぜなら、
ウィッグ(カツラ)が吹き飛ばされるから。
\(゜ロ\)ココハドコ? (/ロ゜)/アタシハダアレ?
夜、帽子をかぶらずに近くまで出たところ、風が吹いてきて、
見事にカツラが飛んだ。
後方に人がいたような気がするが、何も考えずにカツラを拾って歩き出す。
夜でよかった。
カツラの人はこんな目に合うんだ。
これが昼の日中だったら…
人通りの中だったら…
誰かと一緒だったら…
どうなるのだろう???
吹き飛ばされたカツラが道を転がり、追いかける自分を想像した。
(-_-)/~~~ピシー!ピシー!
以来、帽子はカツラを止めるフタのように思って装着するが、それでも風が強いと帽子ごと飛ばされる可能性もあるから、(子どものように)帽子にゴムをつけねば、と思いながらまだやっていない。
さて、ずっとがんの治療について更新してきたのだが、娘の大学入試が本格的に始まり、『「がん」という冒険』から『入試』にタイトルを切り替えて更新してきた。
内容的に重なる部分もあったが、入試は終わったので、がん治療の続きを更新したいと思う。
実は、娘が入学することになった◎大学の3月入試(3月1日)の翌日が、5回目の抗がん剤治療だったのである。
私の場合、抗がん剤治療は3週間ごとだが、前の週、血液検査で白血球の数値が低く、5回目の抗がん剤治療は翌週の3月2日に持ち越すこととなった。
抗がん剤治療の副作用として白血球が減少することはよくあることだが、さらに白血球の数値を低くする抗がん剤治療は避けた方がいいというドクターの判断だった。(白血球の低下→免疫力の低下)
果たして3月2日、白血球の数値は回復し、5回目の抗がん剤治療がスタートした。
毎回、点滴につなぐ注射針をドクターに打たれるのだが、この日も私の血管が、
素直で真っすぐ
だとほめられる。それでも前に3度(2度の失敗)打たれたことがあったから、それだけ難しいものなのだろう、と思うようになった。
「打ちにくい血管とかありますよね?」
尋ねると、
「私なんて血管が肉に埋もれてます」
ドクターが腕まくりして見せてくれた腕には、
確かに血管が見えない。
太っているわけでもないのに、見えないのである。
「打つ方は大変ですよね?」
「打たれる方も大変です」
「確かに」
顔を見合わせて笑う。人間、色んな苦労があるものである。
8回にわたる抗がん剤治療も後半にはいり、薬剤が変わる。
また、手術についてはMRIで経過をみながら、乳房「温存」か「再建」を検討するらしい。「再建」というのには、正直、ドキリとした。考えたくないのではなく、考えていなかった。
そういう可能性(再建)もあるのか。
心の準備をしなければ。
と思う。
5回目からの抗がん剤は点滴時間が長く、横たわりながらでも食べられるおにぎりやお茶を用意するように言われ、朝から玄米おにぎりを握ってきた。
そして、私の抗がん剤治療を知っている姉妹(=女性信者 私ががんであることを話した姉妹はわずかである)から届いたGodivaのワインチョコレートをお守りのようにバッグに入れてきた。
前日娘が受験した◎大の合格発表は明後日。「合格」を望むならまだしも、「合格」すれば(入学金の25万とか、追加合格の◇大のこととか)何とも面倒なことになると、もうウンザリ。私に「ハゲババア」などと心ない言葉を投げつけた夫には、相談する気も起らない。(ますます夫を不機嫌にさせるだけである)
赤やピンク……華やかなGodivaのパッケージを見るだけで癒された。このチョコレートをくれた姉妹は、昔の職場の近くに◎大があったと喜んでいた。いいイメージを持っているようだった。振り返れば、あれが◎大への主の呼び水だったような気もする。