「がん」という冒険(37)
金曜祈り会である。
思えば去年の12月初め、(まだそれほど脱毛していない)前倒しで購入したウィッグをつけてこの祈り会に出た。
黒髪でクセ毛の私が、いきなり茶色のストレートヘアーで登場。(娘達は「別人」と言った)当然、姉妹方は驚く。
「美容院でイメチェンしてきました~」
当惑する姉妹方に、
「38歳IT系で~す(^O^)」
照れ隠しに言うと、はっきりモノをいう▼姉妹から、
「38歳はムリ」
確かに、一回り以上もサバを読んではいけない。
「48歳IT系で~す(^O^)」
言い直すと、子どものように素直で優しい◇姉妹が、
「もっと若く見えるわよ」
「(^0_0^)(◇姉妹大好き)(^0_0^)」
こんな感じで、金曜祈り会のウィッグデビューは明るくスタートした。中にはウィッグだと気づいた姉妹もいただろうが、「おしゃれ」でつけてると思っただろう。
まさか、抗がん剤治療の副作用でハゲになるから。
とは誰も想像もしない。
以来、半年、ウィッグをつけて金曜祈り会に通った。
個人的には、本格的に毛髪が抜けてハゲ頭になり、それでも平気で祈り会に通える自信はなかった。気力もなくなり、祈り会どころでなくなるものと思っていた。
それが、私は髪の毛が抜けても全く元気で、私のウィッグに気づかない(抗がん剤治療などとは夢にも思わない)姉妹方の中にいて、
いつカミングアウトしよう。
と想像しながら楽しみになってきた。それが逆に、祈り会へ行く励みにもなっていた。
これは全く、予想もしないことだった。
祈り会では、当然のことながらがん宣告を受けた人、手術を受ける人、召された人…の話が出る。もし、私ががんのことを話していたら、私は居心地が悪いだろうし、姉妹方もさぞ、やり辛いだろう、と思った。
そうして半年にわたる抗がん剤治療が無事に終わり、入院・手術の日程も決まった。
カミングアウトするなら、
手術前か後か?
と思いながら祈ってきたが、
術後の事後報告では遅すぎる。
と思うようになった。プロセスを省略して結果だけ、というのは、
姉妹方を呆気に取らせるだけのような気がした。
手術前となれば、もう3回しかない。しかも、3回目の6月3日だと入院(6月5日)は明後日だった。また、3日に祈り会に出られる確証はない。
いっそのこと、一貫して「言わない」選択もある。しかし、術後の「再発」「転移」の可能性を思えば、その選択は大胆すぎる。
金曜祈り会の姉妹方にカミングアウトする最善の時と場を備えてください。
と祈った。
カミングアウトのタイミングもあった。
内容が内容だけに、祈り会の最初に言えば、祈り会事態が台無しになるかもしれない。皆が祈り終わると昼食になるから、言うなら祈り会が終わった時かと思っていた。
呼び水は私の右目にできた「ものもらい」だった。私は放っておけば治るものと思っていたが、姉妹方は眼科に行ったほうがいいと言う。
そうして、子どものように素直で優しい◇姉妹が、順々に祈る祈りの中で、私の「ものもらい」のことを祈ってくださった。
正しい治療が行われるますように、悪化せずに治りますように…。
何だか感動した。「ものもらい」ごときでこんふうに心配してくださるなら、がんのことを黙ってはおけない。
そして、私の番が来て祈りの中で、
今まで姉妹方に話さなかったことを、この後、打ち明けようと思います。どうか、その場をご支配くださり、必要なことをお伝えできますよう、その場を整えお守りください。
と祈る。
最後に祈ったのが私で、それから私は言った。
「去年の11月に乳がんの宣告を受けて、抗がん剤治療を受けていました。半年にわたる治療が終わって、来月の5日に入院、6日に手術になりました」
今つけているのもカツラであることを告白する。
「黙っていたのは、姉妹方に『心配かけたくない』という思いではなくて、『がん患者』だという目で見られたくない、そんな目で見られたら、本当にがん患者になってしまう…気がして」
「わかる」と言う姉妹、うなずく姉妹…皆、黙って聞いてくれた。
「このことは、他言無用でお願いします。今日、来られてない姉妹には、私の口からお伝えしますので」
入院、手術…の日を確認され、祈り会は終わった。