「がん」という冒険(104)
さて、双子の姉娘αの在籍する★女子大の会議室で◆准教授を待ち受けるαと私と夫である。なんのために待っているのかといえば、
αの成績があまりにひどく、この調子では4年で卒業は難しいのではないか?
という思いから、私が大学に電話して面談を申し出たのである。
ここで、
はて、確か、双子の妹娘の方は大学から親が呼び出し受けたはずでは???
とお気づきの方がもしおられたら、
あなたは、かなりこのブログを熱心に読み込んでおられる。
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そうなのである。一卵性の双子娘であるが、
妹βの方は大学から呼び出しをくらい、姉のαは親がこちらから面談を申し出るという、見事な双子シンクロである。
呼び出されるのも戦々恐々であったが、こちらから申し出るというのも気の重いものである。まして、面談くださる◆准教授は夫が言うに「s・t・d 」という カソリックのえらい地位の人らしい。
「s・t・d 」は「Sacrae Theologiae Doctor」の略で、神学博士のなかでもカソリック教会において特別な地位をもつ聖職者に与えられる称号とのこと。
日本では何人もいない。
ただでさえ気の重いところへ、二重三重のプレッシャーである。
\(゜ロ\)ココハドコ? (/ロ゜)/アタシハダアレ?(-_-)/~~~ピシー!ピシー!
そんなわけで、壁にかかった十字架のイエス様におすがりするように、准教授を待った。
なんと◆准教授は、手に角笛をもって現れた。
角笛とは???
「われらの祭りの日の、新月と満月に、角笛を吹き鳴らせ」
(詩篇81‐3)
角笛は円錐状になっている動物の角をそのまま用いた笛で、日本でいえばほら貝が似たような用途で用いられたとされる。聖書には角笛が69回登場するらしい。
手にした角笛は何の角だか蛇のように長いのだが、現れた◆准教授は、
全然、いかめしくない。
ポニーテールで学生課の職員さんみたい。
さわやかに笑いかけられ、拍子抜けするほど安堵する。角笛をもっておられるのは、新入生に向けて挨拶するのに使われたらしい。
「お忙しいところ、ありがとうございます。娘の成績があまりにひどく、しかも、本人にまったく危機感も自覚もなく、このままでは4年で卒業は難しいのではないかという不安から面談をお願いしました。よろしくお願いします」
深く頭を下げて私は言った。ここで大事なことは、面談を申し入れたのは、
変な親ではない。
ということを明確にしなければならないと考えた。今や色んな親がいて、大学も身構えているはずである。大学側から呼び出されたβの時には、
この親にしてこの子あり。
と思われるのは最悪とばかりに、夫に厳重注意した。
この角笛にαが敏感に反応した。中学時代にパスポート取得のためパスポートセンターに行った際、土産物売り場でおもちゃの角笛を買ってもっていると言う。
「なんでそんなもの買うんだ?」
夫に聞かれ、
「楽しそうなものが、そこにあったから」
准教授も笑って、
「今度見せて」
「持っていきます」
誠に場の雰囲気はよくなった。
◆准教授はアラフォーくらいか?結婚指輪もはめていて、誠に普通で気安い。αに向かって、
「今回の成績がふるわなかったことについて、αさんから反省点はありますか?」
と聞かれ、αが言葉を選びながらもたもた話し出すと、
「僕がいきさつを聴取した限りでは~」
夫がしゃべり出す。誰も聞いていないのに。
βの時は、相手が物々しい男性教授だったこともあるのか、黙っていた。今は角笛ですっかりリラックス、夫は准教授がしゃべり出そうとするのを制して語り出し、
「お父様、ごめんなさい。いいですか?」
とやられた。一応、娘達の教育係は夫なので、今まで面談には夫も同席してきた。そうして毎度毎度、例外なくこんな調子で先生方には呆れられてきたが、どの先生も黙っていた。こんなふうに、はっきり諭されたのは初めてだった。
それでも懲りずに、私が准教授に質問すると夫が答えようとする。
准教授の前でαに説教を始める。
やれやれ…と思っていると、准教授が私にアイコンタクトで「なんとかしてください」と訴えられ、場を取りなす。何度見つめられたことだろう。
αの成績については、今後の努力しだいでいくらでも挽回できるとのこと。提出物も相談すれば期限を延ばしてもらえるし、誠に前向きな話し合いができた。
最後に、夫が准教授の「Sacrae Theologiae Doctor」について触れ、「バチカンの修道院長くらいえらい」とのたまい、准教授は笑って受け流す。そうして、「僕の出た中高一貫の●校は××系の▲▼で~」と得意げに語り出すので、
「先生はお忙しいんだから」
と切り上げる。
なんと◆准教授は我々のリクエストに応えて、外へ出て角笛を吹いてくださった。
「緊張すると吹けないので」
と言われるのも可愛らしく、吹いてくださった。見渡せば桜が満開で、来る時とはうって変わった祝福の時間となった。
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この後の食事の席で、αのおしゃべりを諭した夫の言葉を私は生涯、忘れないだろう。
「おまえは関係ないことはよくしゃべる」
あやうく食べていた肉団子を喉につまらせそうになった。胸を撫でさすりながら私は言った。
「それは、あなたでしょう」
夫は言った。
「俺は大事なことも言ってる」
夫のなかではそうなのか…?
長きにわたる謎が解けたような気がした。