「がん」という冒険(27)

前回の診断(3週間前)では、抗がん剤でがんがとても小さくなっていて、私の手術は、ドクターの口調からも

部分切除(乳房温存)>乳房切除(全摘)

というふうに受け取れた。

部分切除とは、がんを含む乳腺組織を部分的に切除する手術で、乳房の膨らみは保たれる。一方、がんが乳房内に広範囲に広がっている場合や複数のがんが乳房内の離れた場所にあるなどの場合には、乳房切除(全摘)となる。この場合、乳房の膨らみは保てないが、乳房の再建手術を行うことで形を整えることが可能。

 

私は部分切除とセットで行われると言われた術後の放射線治療について調べ、この日、ドクターの診察に臨んだ。全摘の可能性がなくなったわけではないのに、自分で触診してもしこりがなくなっていることに気づき、いつの間にか私の手術は全摘ではなく温存だと思い込んでいた。

それが…。この日のドクターの診断は、

「がんはかなり小さくなったものの、がんの周りに細かながん(石灰化)が広がり、切除しなければならない量は割合多い」

というもの。

そんなのアリ…?

全摘するしかない「がんが乳房内に広範囲に広がっている場合や複数のがんが乳房内の離れた場所にある」わけではない。そうして、

「温存」と「全摘」のどちらを希望するか、ドクターに問われたのである。

これは…いきなりの「どんでん返し」だった。

全摘の場合、乳房を切除して平らになった胸にニセの乳房(取り外し可能)を取り付ける方法と、再建手術があり、全摘なら私は再建手術を考えていた。再建手術の場合には手術時にエキスパンダーを入れ、6~8か月後にインプラントに入れ替えるという。

全摘のメリットとしては、再建を行えば見栄え(乳房の外観)がいいのと、がん再発のリスクが若干下がるものの決め手にはならないらしい。

「(乳房を)人に見せる気はないので…( ;∀;)」

別段、全摘にすることもないような気がした。

「でも、温泉とか行った時に…」

部分切除でどれくらいの量を切除することになるかはシュミレーションできず、変形が強くなる可能性があるという。

他人の視線ではなく、自分が見て嫌になるかもしれない。

即座に決断しなければならないことでもなく、話は進行する。今後の予定である。最後の抗がん剤治療は5月11日、その後、手術前の検査があり、6月1日に医師との最終相談を行い、6月の第2週に入院・手術を予定しているといわれた。

入院の翌日に手術、部分手術なら4~5日、切除手術は一週間の入院。退院後は家事もできるし、普通の生活をした方がいいらしい。

ここで私は、ずっと気になっていたことを聞いた。

「夫はまだ、先生にお会いしたこともないのですが、同意書にサインしたり…とかは?」

「それは持ち帰っていただいて大丈夫です」

おおっ、と思う。これまでいっさい、私の診察に付き添う気配さえ見せなかった夫に、同意書にサインするため一緒に病院に行ってほしい、とは頼みたくなかった。

ラッキー(^。^)y-.。o○ 

そして、一番の気がかりだったこと、

「手術の立ち合いは?」

「コロナ禍なので禁止です」

「(^O^)/(^。^)y-.。o○(≧▽≦)(^.^)/~~~(^0_0^)」

あまりの喜びに言葉を失う。「ハゲババア」と言われたことは忘れようがなく、私を心配するどころか、がんについていっさい(入院や手術の予定も)、何も触れようとしない夫が手術に立ち合うのかと思うと平安でなくなり、祈った。抵抗はあったが、主が「忍耐せよ」と示されるなら忍耐するしかないと思っていた。

「夫は出る幕なし(^.^)」

「対外的にはそうですね」

「(^O^)/(^。^)y-.。o○(≧▽≦)(^.^)/~~~(^0_0^)」

 

それから私は抗がん剤治療の点滴を受けてから、再び診察室でドクターと向き合うことになっていた。

温存か全摘か?

ぐるぐると頭を回る。どちらでもいい…と主にゆだねたはずが、自分の中で「温存」になっていた。それを主に試されたような気がした。

どちらにするか?

私にはわからない。判断できない。そうして、

ドクターならどうするか、聞いてみよう。

 

この後、診察室でドクターと向き合った私は、聞いた。

「参考までに、先生ならどうされますか?」

即座に返答があった。

「私なら、温存です」

「………………………………」

「身体に異物を入れたくないので」

それが、主の答えのような気がした。