「人生のディナー召し上がれ」(3)

「食欲がない」とよく言います。
悩み事があったり、体調が良くなかったり。
思えば、
退院の見込みもない、末期ガン、余命1ヶ月の患者に、
果たして、食欲があるのか。
そんな患者に、
リクエスト食を聞いて回る大谷さん。
並大抵の苦労ではないでしょう。
子供がありながら離婚して一人暮らし。
このホスピスに入院する74歳の男性には、おそらく、見舞い客もいないのではないでしょうか。
安定した状態でありながら、食べる意欲をなくしている。
そんな男性から大谷さんが聞き出したリクエスト食は、
お好み焼き。
厨房は蒸したキャベツに山芋をまぜ、食べやすい工夫をします。
ふっくらとした柔らかいお好み焼
を提供するのですが、これは、男性にとって、
イメージと違う。
と言われます。
もっとパリパリで硬かった。
昔、共働きだった両親に代わり、年の離れたお姉さんが焼いてくれたお好み焼き。
それは、
戦後の貧しかった時代、食べ盛りでいつもお腹をすかせていた男性に、米の代用品だったメリケン粉アメリカから輸入した小麦粉)と卵1個で作ってくれたおやつ。
思い出を語る男性は子供のような笑顔。
患者にリクエスト食を聞き出す大谷さんは、深層心理を引き出すカウンセラーなんだなぁ、と思います。
単に「食べたい」というのではなく、人生を振り返った時、思い起こされる思い出。
あの日に帰りたい…みたいな。
ノスタルジア
みたいなものでしょうか?
厨房では、会ったこともない「(男性の)お姉さん」が家で焼いてくれたお好み焼き。
にトライします。
考えてみれば無茶な注文です。作るのは戦後の貧しい時代など知らない若い調理師。
「これや!」言うてくれたらええけど。
「違う」と言われたらショックですよね。
結果、
「これだけ硬かったら美味しいわ」
と合格点。
リクエスト食の多くが、患者の人生と深く関わったものが多いと言います。
91歳の男性は、白いご飯をリクエストしたそうです。
貧しさの中、初めて食べた感動を思い出したい。
窯で炊いたご飯をひと口、食べることが出来ました。
食道ガンの手術で声が出せなくなった80代男性、流動食しか食べていなかったにもかかわらず、筆談でラッキョウをリクエスト。
海外出張が多かった男性にとって、ラッキョウが男性にとっての日本の味。
たった一粒のラッキョウを噛み締め、それが男性にとって最期の夕食になったそうです。
なんか…それだけで一本の映画になりそうです。
先に紹介したばってらをリクエストした82歳男性。
「オージービーフのステーキ」
をリクエスト。
75歳まで働き、退職後の楽しみが海外旅行。そこで味わったオージービーフ…です。
82歳でステーキとは、凄い。
でも、
容体が急変して、ステーキはひと口も食べることが出来ず、
匂いを楽しんだそうです。
そうして、お亡くなりになりました。
「ちょっとでも食事のお役に立てることがありましたかね?」
男性の奥様に大谷さんが謙虚に尋ねます。
「やっぱり、食べることって大事なんですね」
奥様は深い感謝を示されました。
番組のラスト、スタッフの前で女性職員が、
「亡くなられた方のお名前を読み上げます」
退院する患者はいないわけです。
誠心誠意お世話した患者を、スタッフは次々見送ることになります。
その心情は…。
「皆さんのことを思って、少し、ひと時、祈りましょう」
祈りで締めくくられていて…。
納得しました。