「盲獣」(1)

随分前に観て、とてもインパクトがありました。
密室の中で描かれる、異常な愛
桂千穂著「カルトムービー 本当に面白い日本映画1945→1980」
にも紹介されていて、それによると、
原作は江戸川乱歩の同名小説。読めばわかるが、映画は全く違うものになっている。原作では盲目の男性が女性達を次々に誘拐して殺害し、バラバラに切断した手足を風船に付けて飛ばしたり、ショウウインドウに飾ったりするという話。
この映画、登場人物は、
3人だけ。
盲目の自称芸術家(船越英二)、ファッションモデル(緑魔子)、芸術家の母(千石規子)。
そして、主なドラマは芸術家の男のアトリエだけで進行していきます。
緑魔子演じるファッションモデルのアキは無名、山名という写真家のモデルになり、大胆なヌードを披露したのが話題になったのですね。その写真展で盲目の芸術家、道夫と出会います。その出会いというのが…
壁の写真には見向きもせず、アキをモデルにした彫刻を、道夫が撫で回していた。
この道夫演じる船越英二が凄いです。目を開きながら遠くを見る形相が、異常で鬼気迫っています。
恍惚としてアキの彫刻を指先で撫で回します。
それを見ていたアキ、
彫刻と自分の身体がこんがらがってひとつになり、彼の掌が直接、私の身体を撫で回しているような感じがしてきた。
思わず、ぞっと寒気がして、急いで会場から逃げ出した。
数日後、
仕事から疲れて帰ってきたアキ、いつものようにマッサージ師を頼みます。
やって来たのが、
道夫なんですね。
最初は道夫と気づかないアキですが、
マッサージというのはありがたい商売です。有名な方とお話ができる。その上、お肌に触らせていただけるのですから。
目くらにとって顔は問題じゃありません。身体の格好、お肌の良し悪しが大切なんですから。あなたは…本当に素晴らしい方だ。
言いながら、嫌らしい手つきでアキの身体をいじり回します。
極め付けはこの台詞。
目くらの指先には目がありましてね、目あきの方より、はっきりと、あなたの身体がわかるんですよ。隅から隅まで…
男の指が、写真展で自分の彫刻を撫でていた指とそっくりだと、アキは気づきます。
石膏では満足出来ず、生身の肌を探りに来たのだ。
金を払って男を帰そうとするアキに、道夫はクロロフォルムを嗅がせ…。
ドアの外で待っていた母親と共謀して、男のアトリエにアキを運びます。
このアトリエが異様で、すっごくディープです。
無数の目、鼻、耳、腕、足、乳房…のオブジェが壁に張り巡らされ、そこで道夫が告白します。
人の話や点字の本から想像すると、この世には目を楽しませるものがいっぱいある。
太陽の光、雲の色、美しい景色、素晴らしい絵、映画、芝居、テレビ…。
ところが僕には何も見えない。
目くらに残された唯一の楽しみ、それは触覚。生き物の肌、中でも女の肌…。特殊学校を出てから、マッサージ師として女の肌に触れて来た。
顔と同じで、女の肌も一人一人違う。
過去に触った女の身体から、気に入った部分をみんな彫刻にした。撫でて触って楽しめるように。
そうして完成したのが、この異様なアトリエなのですね。農家をやっていた畑が高速道路にひっかかり、何千万という金が舞い込んで、このアトリエができたそうです。
来る日も来る日も、闇の中でこの彫刻を撫で回し、楽しんでいたと語る道夫。
確かに「顔」とひと口に言うけれど、目も鼻も口も耳も、顔の形も…一人一人違いますね。
盲人にとっては、「顔」という概念はないのかもしれません。
この世的には、顔の美醜がどうのこうの言われるけれど、「手」の美しさ、「足」の美しさ、「乳房」の美しさ…という見方もありますね。
そして、アトリエの中央には巨大な裸婦像が横たわり、その上で緑魔子船越英二に追いつめられます。
6年かかって、このアトリエを完成して嬉しかったけれど、道夫はそれにも飽きてきたそうです。
女の身体ってこんなものじゃない。
世の中にはもっと美しい女がいる。素晴らしい肌がある。どうしても会いたい、触りたい…。
と思った時、電車の中でアキの噂を聞き、写真展で彫刻に触った。アキの頼むマッサージ屋に入り、本物の肌に触った。
結果は…今までのどの女よりも魅力のある身体だった。
形も肌も…。僕の好みにぴったり合っていたんですよ。
道夫はアキに、
彫刻のモデルになって欲しいと頼みます。