小学1年生の電車通学

平日、午後4時半…。
最寄り駅のホームで見慣れぬ人影を発見。
それは…
黒いスーツに黒い帽子、黒いランドセルを背負った、明らかに小学1年生やろ

と思われる女の子である。目が釘付けになるようなお人形のような女の子…
ではなかったが、私の視線はそこから離れなくなる。
この界隈に私立の小学校などないし、明らかに浮いている。
保護者らしい人物は現れない。
一体、どうしたことか…?ホームに到着した電車に乗り込む女の子、私も乗り込む。
私は素早く座席に座るが、女の子は立ったままキョロキョロしている。
私の中で過去がフラッシュバックする。
私はまだ二十代の娘であった。
地下鉄に乗った折、座席に黒い帽子に黒いランドセル…
明らかに私学の小学生(低学年)…
と思われる女の子が隣に来た。
少女漫画に出て来そうな女の子であった。若かった私は、思わず、
「どこの学校?」
と聞いてしまった。女の子は答えなかった。そして、二十代の娘から遠くかけ離れた今、
私は、キョロキョロしている女の子に、勇を鼓舞して「おいでおいで」の手招きをした。
すると…女の子は私の隣に座ったのである。
おいおい…

これでいいのだろうか…と自問自答しながら、
この子は、私に怪しげなオーラを感じなかったのだ。
と少し安堵する。
そして、私は聞いた。
「何年生?」
「1年」
…想定していたものの、ぎょっ、となる。
小学1年生が一人で電車に乗るんかぁ〜!?
が、しかし…この世にある私立小学校…その、何人いるかわからない小学1年生が、
保護者付きで電車通学するわけないよな。
である。
…………………………………………私の娘達(双子)は、徒歩5分の小学校に通学したが、初めの頃は(家を出てから)心配で後をつけ、気づかれて、
「ついてこないで!」
などと言われたものである。
私立の小学校に受かるようなお子さん…と言っても、
子どもは子どもやんけ。
と思う。
今のご時世、狙われたら、ひとたまりもない。
隣に座る女の子に、私は聞いた。「どこで降りるの?」
「田園調布」
げっ…お嬢様やんけ。誘拐されたらどうすんの???
「学校はどこにあるの?」
「横浜」
物騒なところではないけれど、何しろ人が多い…人混みに紛れて、連れ去られたら…
などと考えてしまう。
安全大国ニッポン
…が崩壊したのはオウムの頃からか…?
今はもう、何が起きても不思議ではない。
娘達が小学校に入って「名札」というものを作ったのだが…この「名札」
リバーシブルになっていて、片面だけに記名する。そして、小学校内で「記名」面を出して、小学校を出ると記名のない「裏面」を向ける。小学校を出た「ご近所さま」に、
名前を知られては危険
ということなのである。時代の移ろいを感じさせられた。
確かに…ご近所に子どもの「顔」と「名前」を知られては…危険かもしれない。

色々葛藤する私は、隣に座る女の子に質問を浴びせる。
「毎日、電車で通ってるの?」
「(頷く)」
「一人で電車に乗るの?」
「(頷く)」
学校の名前は聞けない。
「…こんな時間になるの?」
「(頷く)だから、お腹が減った」
何故かこの時、私は小さなパンを1個、バッグに持っていたのである。
小腹が減ったら食べようと、余っていたパンをバッグに入れた。
この小さなパンは、この小学1年生の女の子にあげるのには、ぴったりであった。これぞ、神のご計画…!しばらくすると私の降り立つ駅に到着する。
それを待ち受けて、私は女の子にパンをあげた。
女の子は素直に受け取り、その場で口に入れた。