シャネルを着る(1)

2月は娘達の受験に、子供会の会長などやっていたので、年度末の引き継ぎ業務で嫌に長く感じられたのが、3月は飛ぶように過ぎて、
来週は(小学校の)卒業式やんけ。
そして来月は、
(中学校の)入学式やんけ。
着て行く服ないやんけ。
幼稚園の卒園、小学校の入学式は喪服に使っている(冠婚葬祭用)黒のスーツにした。(「GIVENCY」で8万くらいだったと記憶している)
今回もそれで乗り切れるか…
と思ったが、周囲に探りを入れてみると、
卒業式はダーク系、入学式は明るめに
みたいな。
喪服OKはいなかった。
どうしよう。
幼稚園児だった娘達が中学生になる。
ハレの日である。
6歳から12歳までの6年間、幼児から少女に…。
惰性の喪服ではなく、ちゃんとしたスーツを新調しよう、と決意する。
レンタルとか「○万円均一」ではなく。
何となく財布に7万円入れて出陣。
何となく高島屋

「導いてください」と主に祈る。
別に高島屋でスーツを購入しようと思ったつもりはない。(予算7万だし)
ただ、相場も知らないので社会勉強がてら2階の高級ブランドフロアに行く。



エルメスディオールセリーヌ、グッチ、クロエ…
ブランド志向ではない。あくまで、「参考程度」。
20代の頃から、父と大阪に買い物に行って、いつも立ち寄ってバッグや小物を買っていたのがエトロ(ETRO)というイタリアンブランドで、ここへは痛んだバッグを何度も修理に来た。

いつも立派なバッグが買えるくらいの修理代金だった。
ちなみに…と、ハンガーにかかっている洋服のタグを見れば、
どってことないスカートだけで100000円。
ノースリーブのシルクのインナー、128000円。
見る物見る物…一桁違う。
ユニクロ…思えば二桁違う。
は〜ぁ、そんなもんですかと、他を見て、
こんなん、誰が買うねん。
確かに、どの店舗もお客はほとんどない。
それでも、
買う客はおるねんなぁ…。
と歩いていたら、Chanel(シャネル)に行き当たり…
そう言えば、

シャネルのスーツって、あったよね。
父と大阪で買い物した際も、ひやかしでシャネルのブティックに入ったことはある。
値段の問題以前に、シャネルて、日本人に似合わないよね。
ブランドも、さりげなくもつのがお洒落だと私は思うのだが、
日本人がシャネルもつと、シャネルもってます。シャネルもちたかったんです。
みたいな感じが嫌だった。
ディオールセリーヌアルマーニもヴィトンも…持ってたけど、シャネルとは無縁だった。
それがこの時、ふっと、
「今を逃したら、私はこの先、シャネルスーツに腕を通すことなく、人生終えるよね」
と思ったのでした。
これを、魔が差した、というのでしょう。
ウィンドウに飾られてるスーツ…
スカートが350000円、ジャケットが650000円
はぁ、服の値段と違うで。
と、いつもなら撤退したのが、
「この機を逃したら、もう二度と、シャネルスーツ着るチャンスなんてないよね」
別に「シャネルスーツ」に憧れてたわけでもないけど、瞬時に、自分の女としての賞味期限みたいなものを感じたのでしょうか?
着るのはタダやし。
シャネルスーツがなんぼのもんじゃい!
この日、少し寒いこともあり、ふわっと、毛皮を羽織っていたのです。いつもの小汚い恰好なら、こんなことは思いもよらなかったのでしょうが、
ここで引き下がるのは、何だか「負け」を認めるようで、店内に踏み込んで行ったのでした。
他に客はおらず、自然と店員がやって来て、「何かお探しですか?」
「子どもの卒業式と入学式の服を探してるんですけど…」
「どういったのがよろしいですか?」
「じゃあ、あれ」
いかにも慣れたふうに、掛かってる黒いスーツを指す。
試着する。
試着した。
あぁ、これで私は、シャネルスーツを着た女になった。
シャネルバッグを買う女は大勢いても、シャネルスーツに袖を通した女は、そうそういないよね。
何やねん、これ。
しかし、シャネルブティックでシャネルを着るというのは、確かに度胸がいる。
度胸がつく、というのは、女前が一枚、上がるということかもしれない。
膝丈のスカート、ジャケットは黒地に白いボタン。
ロゴマークもないし、フォーマルでも「シャネル着てます」という感じではない。
「おいくらですか?」
と既に試着室で見て知ってるのに聞く。
「(値札見て)上下で100万ですね」

同じ100万なら、ウィンドウにあった方がいいな、と思う。
「他のものもお試しになりますか?」
そして、ウィンドウにあったスーツを着てみることになったのでした。
注・右写真は、宮沢りえが娘の入園式に140万のシャネルスーツを着たことから検索したものです。