「大菩薩峠」(2)


富士を見下ろす大菩薩峠、娘と巡礼の旅路にある年寄りを、理由もなく一刀のもとに斬り捨て、
奉納試合で竜之介と対戦する兄のため、八百長試合を頼みに来た妹を手籠めにし、
(妹は嘘で実は妻、夫には離縁される)
奉納試合で八百長どころか、相手を殺してしまう机竜之介。
極悪非道、犬畜生…
もう、救いようがない。
はずが、
手籠めにされ、離縁された上、夫を殺されたお浜は、竜之介と生きて行くことを選びます。
こんなヒーロー、成り立つのだろうか?と思うのですが、
理屈抜きで納得させられてしまう。
非人情でも、人でなしでも…
女は惚れる。
逆に言えば、
いくら好人物でお人好しでも、女は惚れない。
ここで、冒頭、竜之介に斬り殺される年寄りの娘、お松を山本富士子、奉納試合で竜之介に殺される宇津木文之丞(お浜の元夫)の弟で、兄の仇を打ちに来た宇津木兵馬
本郷功次郎が演じます。


竜之介に会いに机道場を訪ねた兵馬は、竜之介の父、弾正笠智衆から、自分の代わりに息子を叩き直してほしい、と。
(竜之介はお浜と江戸へ旅立ちました)
病の床にある弾正には、息子をどうすることもできない。
竜之介の「音無しの構え」は、昔は見所があったものの、今となっては「魔剣に落ちた」
兵馬にとって、竜之介は兄の仇。
兵馬に息子を「叩き直してほしい」というのは、「殺してほしい」と同義ですね。
怖ろしいやりとりです。

「正しい修行には正しい師匠が必要」
今の兵馬では竜之介に太刀打ちできないため、剣聖島田虎之助を紹介されます。
虎之助の元で修行するため、兵馬も江戸へ向かいます。
一方、竜之介はお浜と一児をもうけ、江戸で平和とは言えないまでも所帯をもっています。
今で言う、ニートでしょうか?
江戸で道場を開けば、それなりの働きができるものを、昼間から畳でゴロゴロ…。
息子、郁太郎のためにも、何とかしてほしいと懇願するお浜に、
「身から出た錆」
自業自得…というのでしょうか?
あれだけのことやっといて、今更、それはないやろ。
竜之助は新撰組に出入りするようになり、ある夜、誤って島田虎之助に斬りかかった土方歳三らが、虎之助の絶妙な剣の冴えに一蹴されたのを目撃します。
虎之助は言います。
「剣は心なり。心正しからざれば剣も正しからず。剣を学ばん者は、まず心を学べ」
竜之介の父、弾正が竜之介に言い続けたことですね。
で、この虎之助の道場で兵馬は日々、兄の仇=竜之介を打つため修行しているわけです。
「久しぶりに気持ちが落ち着いた。二人で飲もう」
夫婦差し向かいで酒を酌み交わすシーンがあります。
しんみりと…。
たまには、こうでなくちゃ。
と思えば、これがまた、凄い。

悪縁とあきらめきって、こうして辛抱しているのですよ。悪縁なら悪縁のように華やかな暮らしもあろうものを、本当につまらない毎日」
そんなお浜に、竜之介はにでもなれ」
お浜は嘆きます。息子、郁太郎を抱いて、おまえがいるから口答えできない、出て行くところもない。
そうしてとうとう、
竜之介が奉納試合で命を奪った元夫、「文之丞が恋しい」と言ってしまいます。
竜之介に手籠めにさえされなければ、今頃文之丞と…。
すると、竜之介は、
「身を誤ったのはおまえばかりではない」
もう、腹の底から沸きあがる本音炸裂、壮絶な台詞の応酬です。
お浜を魔物と言い放ち、奉納試合で殺気立ち、文之丞を死なせてしまったのも、こうして自分が骨抜きになったのも、魔物であるお浜のせいだと言うのですね。
なるほど〜。勝手な責任転嫁のようですが、一理あるような気もします。
もはやこの二人、男とか女、惚れたはれた…の次元ではない。
悪縁、魔物…悪魔に取りつかれたような。
「私が魔物なら、どこまでも魔物になりましょう」
郁太郎に手をかけようとするお浜を突き飛ばし、
「死ぬとも生きるとも、勝手にせよ」
島田虎之助の元で修行した宇津木兵馬から竜之介への果たし状が届きます。
竜之介に離縁を申し出るお浜、郁太郎と二人で生きて行く決意をします。そこへ、放り出された兵馬からの果たし状を読んでしまい、
「兵馬殿に討たれてくれ」と頼みます。自分も郁太郎もこの場で死ぬ、と。
お浜にすれば、こうなったのはすべて自分のせい。お浜が竜之介に八百長試合を頼みさえしなければ…。
お浜の頼みをはねつけ、「兵馬を斬る」と断言する竜之介。
そうして、畳の上で居眠りを始めます。
お浜の顔が般若の形相に変わり、刀を取ったかと思うと竜之介に襲いかかり…。

竜之介はお浜に斬り殺されてしまいます。
…なわけないよね?
この二人の行きつく先は…。
そして、竜之介VS兵馬は…?!