ベッドの布団が丸く盛り上がり、蠢(うごめ)くさまが鏡台の鏡に映る。
ベッドで忠夫の愛撫に応える白いネグリジェの夏子。
夏子はベッドから床に。
たくし上がったネグリジェから夏子の白い胸がはだけ、乳房をむさぼる忠夫。
夏子は白い両足を開き高々と上げ、忠夫はその谷間に顔を埋める。
夏子「あ、イタ…」
忠夫「…」
夏子「何処で覚えたの?そんな所噛むの…」
忠夫、それには答えず、夏子の口を唇でふさぐ。
夏子を攻める忠夫、歓喜の声を上げる夏子。


『熟れすぎた乳房 人妻』(1973年)の出だしです。
これ、ピーター先生の日活ロマンポルノ、デビュー作。53作中の記念すべき第一作なんですね。デビュー作ながら、実に豪華なキャスト。主人公の若き人妻、夏子に宮下順子。その姉、春子に白川和子…。日活ロマンポルノ界の女王、夢の顔合わせです。日活ロマンポルノは1971年にスタートですから、まだ始まって間もなくですね。当時、宮下順子24歳、白川和子26歳。その後、どちらもロマンポルノの枠を越え、一般映画やテレビドラマで華々しい活躍を見せます。その演技力、存在感…は今も一流の女優!そういう意味では記念碑的作品とも言えます

私が感心したのは、結婚7年目の夫婦の「倦怠感」が実に軽妙にセンス良く描かれるということ。
ファーストシーンはSEXシーンで始まるものの、とても押さえ目ですぐ終わる。
この次には、パジャマの忠夫が台所でチャーハン作って一人で食べる。そこへガウンの夏子が顔を覗かせ、

「また新しい人が出来たのね?」
と来ます。「どこで覚えたの?そんな所噛むの…」で気づいたんですね。慌てる忠夫に、
「いいのよ、別に怒ってるんじゃないの」
ひょうひょうとしたものです。5年前の浮気では夏子は実家に泣いて帰り、それで懲りた様子。
「変わったな、おまえ」
と忠夫。そりゃそうです。
「慣れたのよ」
「俺の浮気にか?」
「あなたによ。あなたのなさること、何から何まで…。もう7年も一緒にいるんですからね」
夫は夫で、
「おまえは、終わるとだらしなく寝込んでしまう。だから、俺がこうして自分で作らなきゃならない」
「大体おかしいのよ。終わったらお腹がすくなんて…」
と欠伸(あくび)。大きな溜息…。妻が去っても豪快にチャーハン食べる夫。

うまいなぁ…、と唸りました。もう、色気も素っ気もありません。お互い嫌いになったのではない。妻は十分綺麗だし、子供もない。ただ、結婚生活の「慣れ」というマンネリ化。お互いの不満を何となくやり過ごし、妥協しながら暮らす。そんな夫婦の「倦怠」が気の利いた台詞で見事に描かれます。翌朝には、朝食を整え珈琲を煎れている妻に、夫が「(朝食は)いらない」と素っ気なく言います。その上、玄関に脱ぎ捨てられた靴を自分で揃えようとはせず妻に揃わせ、靴ベラを要求し、使った靴ベラは妻の顔を見もせず後ろ手に返す。まだまだ亭主関白主流の70年代…です。妻はベランダから笑顔で夫を見下ろしますが、夫は見ようともせず車に乗り込み、行ってしまう。取り残されたような若き人妻、その寂しさ、欲求不満…。ここでタイトル『熟れすぎた乳房 人妻』です。
ファーストシーンのSEX描写の淡白さとは逆に、夫婦の倦怠、妻の不満…をこれでもかこれでもか…と描いているところ。ただのロマンポルノではありません。貞淑な人妻、夏子の不満が、しだいに膨らみ膨らみ…破裂するのです。

24歳の宮下順子…。美しいです。ミニスカートにロングヘアの黒髪なびかせ、エキゾチックな美貌。そこへ、妹の冬子、姉の春子…が、それぞれの男がらみで夏子を刺激します。ボーイフレンドの石井を連れて夏子のマンションを訪れた妹、冬子。夏子が買い物に行った隙に、童貞石井を挑発。これは…!と思ったのが、

勃起させられた石井のイチモツに、冬子が脱いだブレザーを掛けたハンガーを引っ掛ける。

意味もなく、面白い!!

戸惑う石井に、冬子は脱いだスカートをハンガーに引っ掛けます。

男をオモチャにしてる、ってことなんですかね?石井の反応に

「我慢するの、男でしょ?」

でも、我慢しきれず、ピュッ…!

「イヤね、ホント、童貞って。何処かでちゃんと修行してらっしゃい!」

そこへ、姉の夏子が帰って来ます。

「うちは連れ込みホテルじゃないのよ!」

冬子に説教する夏子。「葉山のお母さま」とか「春子お姉さま」とか…。なかなかお育ちの良い姉妹のように思われます。そして、次には春子お姉さまを訪ねた夏子…。いきなり…

炬燵(こたつ)で、赤いマニキュア塗った足を男が舐めまくってます。

ファースストシーンとは違い、こちらのSEX描写は実に濃密でイヤラシく、獣(けもの)のようです。鞣(なめ)した皮のような肌と肌、肉体が絡み合います。男は歯でビールの栓を開け、ビールを女の足に振りかけます。そのビールを味わうように舐めずって行くんですね。

夏子は驚きつつも、陶然と魅入られてしまいます。

「ブルーマウンテン煎れてあげるわ」

スナックを経営している姉、春子は、すべてを目撃された妹、夏子に照れ隠しに言います。

「お姉さま、あんなことして何ともないの?」

「赤いマニキュアしてると娼婦になったみたいで浮気でも何でも出来る」

春子は足の指に赤いマニュキュアを塗っていました。夫がアフリカに出張したのを理由に、春子は密事を正当化しようとします。相手は夫の同僚で、夫の後継者としてアフリカへ赴(おもむ)くことが決まったと言い、これが最後の情事だと…。
そして、アフリカ出張の決まった男が、夏子に言います。

「僕は本能的にわかる。あなたは僕に抱かれます」

結果として、妹、冬子の恋人、石井。そして、姉、春子の相手、水野も…夏子に惹かれ、夏子と結ばれることとなります。夏子は石井に対しては、子供相手のような、掌(てのひら)で転がすような対応をし、水野に対しては、警戒心丸出し、敵意丸出しにしながら、惹かれる気持ちをどうしようもない…。そんな女心、巧みに描かれていました。ただ…

夏子と石井が、夏子の葉山の実家で結ばれるシーンで、流れていたBGMが森昌子の「先生」だったのは…どうにも合点が行きません!

明日、神戸から出張先のアフリカへ発つという日。水野はマンションまで押しかけ、夏子をさらうように車で神戸に…。
「覚悟はいいの?遊びじゃないのよ。私…」
童貞を捨てさせた石井君とは違います。水野は答えません。明日にはアフリカへ発つ身です。ムードが盛り上がり、コートを脱いだところで夏子はハッ、とします。マンションから身支度もせず連れて来られ、エプロン掛けたまま…。水野も大笑い。
ピーター先生、お見事!!!
夏子が水野と肌を重ねている間、夫、忠夫は夏子の姉に電話したりして…。浮気出来るものならやってみろ、と口では言っても、妻の帰りが遅いだけでソワソワしてしまう。世の夫とはそんなもの。

夏子と水野…。「これきりなの?」「そうだよ」「イヤよ、イヤ…!」――そんな湿っぽい愁嘆場はありません。
夏子はタクシーの中。一人で夫の待つ自宅へ帰るのです。メーター料金がカチャ、カチャ…と上がり、9000円台から10000円台へと切り替わる。まるで、シンデレラの魔法が解けたように、そこにいるのはタダの人妻。男は去り、朝帰りの妻を待つ夫だけが待ち構える。夏子にとっては、どうしようもないことをしでかしたような、一方で、どうとでもなれ…というような…。名シーンだと思います。

この映画は、かの寺山修司が「ソフィスティケーション(都会的で洗練されていること)がある。それは君(ピーター先生)の力だろう」と激賞されたそうです。

興行的にもヒットしたのが頷けます。

YA〜 \(@ ̄∇ ̄@)/ YA〜