「がん」という冒険(65)
その日、放射線治療の帰りに95歳、一人暮らしの★姉妹を訪問した私は、
「◇姉妹(私のこと)は元気ですか?」
と聞かれた。
「元気」って何だろう?
とがんになってから、よく考えるようになった。
「元気?」と人に聞かれて、私はなんと答えればいいのだろう?
というのも、私は「元気」なのである。元気だから元気なのだ。
不思議なことに、
がんになる前、私はこんなに「元気」だと自覚したことはなかった。むしろ、いつも元気がなかった。無気力で疲れていた。
思うに、身体に異常のないこと(健康)と元気とは、あまり関係ないのではないか?
★姉妹には、まだがんのことは話していなかったし、そろそろ話そうかと思っていたところだったので、私は言った。
「驚かれると思うんですけど、私、去年、乳がんになったんです」
「へ~~~」
「半年間の抗がん剤治療が終わって手術を受けて、今、放射線治療に通っています」
「大丈夫なの?副作用とか」
「皆さん、心配してくださるんですけど、がんになって苦しかったことは何もなくて、感謝しかないんです」
「まぁ~、すごい証しねぇ」
証しとは、業界用語で、イエス様から受けた恵みや素晴らしさ、どのようにしてイエス様と出会ったか、というようなことを公表することである。
「『がん』というふるいにかけられて、余計なものが全部落ちていって、ふるいに残ったのはイエス様だけでした」
それが、今の私の「元気」のもとなのだろう。
抗がん剤治療で毛髪がすべて抜け、カツラをつけて祈り会に通ったこと。誰も「がん」とは気づかないのが愉快で、いつカミングアウトしようか楽しみだったこと。手術が近づき、入院前にようやカミングアウトして驚かれたこと…。
「いい話が聴けて感謝だわ~」
★姉妹は喜ばれ、私も嬉しかった。
とりとめなくおしゃべりしていた★姉妹と私は、医療用ベッドの端に並んで座っていたのであるが、突如、私は見てしまった。
「あ、ネズミ!!!」
この時、自分がどのような反応をしたのか覚えていない。とにかく驚いた。小さくないネズミが、壁の上部を走り去っていったのである。
話には聞いていた。祈り会で★姉妹の住まいにネズミが出ると。ネズミ対策も練られていた。
ただ、
出るなら台所だろう、と思っていた。
\(゜ロ\)ココハドコ? (/ロ゜)/アタシハダアレ?
★姉妹によると、私は「怖い」を連発し、その怖がりようは普通ではなかったらしい。
私は潔癖症ではないし、ゴミをゴミ箱に捨てない家族と暮らしているが、それでも
突然、家にネズミが出たら、びっくりするどころやないやろ~
である。
★姉妹の家は築85年くらいで、昔からネズミがいた。そう、昔は普通の家にネズミを退治するために飼い猫がいたのだ。
ネズミと共存する生活のなかで、★姉妹は夫と暮らし子育てもした。そして今も、★姉妹の家にはネズミがいる。
ネズミの前歯は一生伸び続けるため、伸びすぎてしまうと餌が食べられなくなり飢え死にする。そのため木製の家具などで伸びた歯を削るのだという。そのほかにも、ノミやダニを寄生させたり、糞尿をまきちらす。淡々と語る★姉妹に、
や~め~て~
私は耳をふさぎたくなるのだが、★姉妹は止まらない。
「私が12時間倒れていた(64話)ときに、よくもネズミが齧りにこなかったものね」
「人間を齧るんですか?」
「そりゃ、美味しいでしょう」
「……………………………………(一一")………………………………………………」
ホラー映画である。
ネズミに対して★姉妹には免疫ができているのかしれないが、不衛生であることには違いない。心配した姉妹方が毒のエサをまいて、しばらくネズミは出現しなかったらしい。
「このネズミもイエス様ですよ」
「どうして現れたんですか?」
尋ねる私に★姉妹はいみじくも言った。
「ネズミがいることを◇姉妹(=私)に見せられたんです」
「……………………………………( ;∀;)………………………………………………」