「がん」という冒険(18)

そして金曜日、週一祈り会を休み、近くのプリンスホテルに出かけた。

ウィッグを買いにである。

新聞の折込チラシにTVCMでも流れる業者が、展示即売会を行うという。

チラシを見れば、20000~30000円を中心に、10000円以下から50000~60000円、121000円と色々ある。

ウィッグを使うようになって2か月、そろそろ二つ目が欲しいと思っていた。

というのも、一つ目を買ったサロンでは、アフターサービスとして、

購入から一年の間に3回、通常(税込み)3300円から4950円のシャンプーセットが無料

というのがある。一時預かりでメンテナンスも行うらしい。

ところが、である。

メンテナンスでウィッグを預けるということは、頭はハゲているため、

もうひとつのウィッグが必要

ということなのである。

こういう仕掛けかぁ~

と思う。

アフターサービスではなく別の相談でそのサロンを訪れた時に、いきなり、

「購入して一か月以内ですと、全商品、3割引きでご購入いただけます」

と店員。嫌気がさしたが、それでも時間があったので、ひとつ試しに装着した。

値段を聞くと、

「150000円です」

3割引きで100000円。私が最初に来店した際に「100000円以内で」と言ったからこれか、とほとほと興ざめした。アフターサービスは受けても、ここで予備のウィッグは買うまい、と思った。

 

そうして、訪れたプリンスホテルの展示会場。

予想もしなかったが、受付から接客まで男性社員が目立つ。私を迎えてくれたのも男性だった。私は言った。

抗がん剤治療をしていて、予備のウィッグが欲しくて」

「では、パーテーションがあった方がいいですね」

ウィッグを取り外しする気遣いである。男性社員はフロアーの隅の方へ移動し、カーテン台で仕切りを作ってくれた。

私は、今つけているウィッグの代用になるものとして、あまりスタイルの変わらないものを頼んだ。3つ4つ試着しながら、色々と話を聞いた。

抗がん剤治療が終わっても、普通の長さに生えそろうまでには2~3年かかる。

これは覚悟の上である。

抗がん剤治療が終われば、毛は生える」と医師は言う。しかし、抜け方に個人差があるように生え方にも個人差があり、元の通りになるとは限らない。

これは、考えないようにはしていたが、内心では案じていた。髪質や量、生えない箇所があるかもしれないし、白髪ばかりかもしれない。考え出すとキリがないし、考えても仕方ない。「イエス様におまかせ」とフタをした。

この男性社員は、抗がん剤治療のためにウィッグを購入に来た客を何人も見てきたという。そうして、「ハゲ方も生え方も色々」を実体験したらしい。だから、

抗がん剤治療が終わっても、ウィッグをする人は多い。

という。

なるほど。

私の今の髪の状態はというと、一言でいえば、

ハゲ茶瓶(はげちゃびん)

であるが、全く抜けきっているわけでもない。クセのついた髪がほんのすこ~し残っている。とくに襟足は残っているから、キャップをかぶるとハゲはごまかせる。しかし、キャップを取れば、クセのついた髪がわずかに残ってるばかりで、こういう残り少ない髪をポマードで撫でつけているおじさんは結構、見かける。

こういう経験をすると、だんだん覚悟もできてくる。抗がん剤治療が終わって、元通りに生えそろわなくても、ウィッグにつけ毛…慌てずに対応できそうだ。

私はハゲ茶瓶の頭に黒いネットをかぶり、その上にウィッグを装着している。だから、男性社員の前でウィッグを取り外ししても、ハゲ茶瓶頭を見られずにすんだ。ちなみに、私の頭は小さめらしい。(MサイズとSサイズの間)

現在装着しているウィッグはショートのストレート、やや明るめ。デパートに出店しているサロンで、下から2番目に安い品だが、私としては安物を買ったという自覚はない。上を見ればオーダーメイドで500000~700000円、キリがないが下を見てもキリがない。私はウィッグの価格の違いについて聞いてみた。広告や宣伝、店舗のあるなし…は当然あるだろうが、品質的にはどうなのか?

そして、具体的な答えを聞くことができた。

・簡単に言って、安い品は劣化が早い。ウィッグは消耗品で毛も抜ける。毎日装着しているとひと月でダメになる品もある。

・とくにつむじの部分は劣化が早く、毛が抜けて薄くなり地肌が見えてくる。よって、高級になるとつむじの部分に人肌を使ってある。

・髪を1本ずつ植えているか、10本ずつ束にしているか。1本ずつの方が価格も高く、当然、長持ちする。

・髪の色も高級なものほど多色使いで自然な輝きがある。

・高級なものほど(アクリル100%でなく)人毛を使い、指先で流れを作れたりする。

なかなかに説得力があった。そうして、外したままの私のウィッグは、

100%アクリルで人肌も使わず(確かに、頭頂部のつむじ部分が、そろそろ薄くなりかけている)、はっきり言葉にしたわけでないが、安物であると値踏みされてしまった。

そうして、人肌使い(ウィッグの裏側の頭頂部に袋とじにされたシートのようなものが張り付いている)、人毛が40%で1本ずつ植毛されたショートのウィッグは、フォルム的にもいい具合で、普通に使用して5年くらいはもつという。また、この男性社員は元美容師で、ここでウィッグを無料でカットすることもできるし、今後、有料にはなるが、好みの長さや色にすることもできる。

そして、値段は…

100000円どころではなかった。はっきり言って、現在使用中のものより100000円高い。

\(゜ロ\)ココハドコ? (/ロ゜)/アタシハダアレ?

こんなつもりではなかったし、財布に20000円入れてきて、それで間に合う予定だった。しかし、ここへ来る前に、

「必要な買い物ができますように。無用の買い物からお守りください」

と祈ったから、これが主にあって、必要な買い物なのだろう。

がんを宣告されたショックから、ウィッグを選ぶ精神的余裕もなく、いきなり300000円の品を買ったという人のブログを読んだ。がん宣告でショックを受け、ダメ押しの「ハゲ」宣告である。そういう人、多いような気がする。その人はそのうち通販を試すようにもなり、品質の良しあしは価格によらないという意見だった。

300000円を思えば、まぁ、いいか。多少は知恵もつき、冷静な判断をしたうえでの買い物ならば、良しとしよう。

チラシにあったのは、最高で121000円(しかも100000円超えは一点だけ)だったんだけどなぁ(/_;)