「がん」という冒険(10)
元旦の午後9時、兄弟でzoomをした。
私は男ばかりの4人兄弟で、正月や盆には実家で顔を合わせた。
最後に会ったのはコロナ前の正月だから、丸2年顔を見ていないことになる。
それぞれの生活があり、とくに連絡を取り合うこともなかったのが、去年は私ががんになったことで、3人の兄弟にメールを出した。
「こんにちは。(時候の挨拶)今回はお知らせすることがあり、メールしました。ちょっと重い話ですが聞いてください」
と書き出して、がん宣告を受けたこと、がんの状態や治療計画、夫や娘達の反応など、必要な情報を暗くない、なるべくやわらかい口調で、語った。そして、「今まで通りの生活がしたいので、今まで通りに接してください」とお願いした。
なにせ、「がんの告白」である。文面を考えながら、まるでドラマだな、と思う。メールを受け取る方にしてみれば、日常にいきなり「がん」が投げ込まれるのだ。それも血のつながった兄弟から。
今回のことで、夫をはじめ、何人かに「がん」を告げた。「がんになってしまいました」と言うと、相手は絶句する。絶句したまま、私の次の言葉を待つのである。もちろんこれは体験してわかったことだが、逆の立場なら、私もやっぱり、そう(絶句するしかない)だろうなと思う。
そのメールがきっかけで、兄からは「びっくりした」と電話があり、弟たちには「メール届いた?」と私から電話した。抗がん剤治療が始まってからは、副作用で髪が抜けることをユーモアを交えてメールした。そうして「正月にzoomしようよ」と私が呼びかけたのである。
このzoom開催の目玉は、私のウィッグ(カツラ)披露である。兄弟だから化粧もせず、すっぴんに眼鏡でzoom画面に登場すると、
「おばはんになったなぁ」
と兄。下の弟は、
「何とか姉妹みたいやな」
「叶姉妹?」
「…なわけないやろ」
「阿佐ヶ谷姉妹やろ」
と上の弟。
「そうそう阿佐ヶ谷姉妹(^_-)」
「………………………………( ;∀;)………………………………………………」
まぁよい。関西人はリップサービス(気配り)というのを知らないのである。
そこでまた、下の弟が爆弾発言をした。
「それ(ウィッグ)取ってみて」
「\(゜ロ\)ココハドコ? (/ロ゜)/アタシハダアレ?」
これにはさすがに驚いた。
「そんなん見たいか?」
「どんなんかな思て」
んんむ。この弟は昔、円形脱毛症になったらしく、そういう興味があるのだろうか?
「嫌です」
断固として拒否。そんな悪趣味はない。
見れば兄弟は皆、ハゲや薄毛とは無縁。頭ではわかっていたが、本当に、身内の中で私がハゲの初穂になってしまった。そんな感じで、
ハゲになった感慨を語った。
ハゲというのは、どこかユーモラスな雰囲気があるが、本人にしてみれば、本人に責任はない上、特効薬もない。実に深刻で切実なのだ。それがよくわかった。
そんなこんなで、がんにまつわる真面目な論争もし、あっと言う間に2時間が過ぎて解散した。
最後に下の弟が、
元気な顔見れてよかった。
と言ってくれたのはうれしかった。本当にそうだろう。お互いに大切なことである。
この弟は煙草も吸うし酒も飲む。姉としては心配だが、どうすることもできない。検査を受ければいいというものでもないだろう。祈るしかない。
また、がんになった姉を通して、何か感じてもらえれば、と思うし、それを第一に考えている。
がんを話題に、盛り上がったこと、語り合えたこと…不思議な恵みの時だった。