「悲愁」(1)

原題「FEDORA」、1979年、米、仏、西独製作。脚本・監督はビリー・ワイルダー

「フェドーラ!」
女の叫び声。
一人の女が走って来た列車に飛び込む。
死んだ女は若くして引退した伝説のハリウッド女優、フェドーラ(マルト・ケラー)。
「ボバリー夫人」「アンナカレーニナ」「ジャンヌ・ダルク」など、40年にわたりスクリーンを沸かせた。
年齢は60〜70歳、「美貌は衰えなかった」と報道される。
バイオリン、スポットライト、テレビカメラの数…。
葬儀に参列した映画プロデューサーのゲトワイラー(ウイリアムホールデン)、
彼女らしく最後まで派手。
まるで映画のプレミア。
と鼻白む。
酷い死に方した割には上出来。棺の中の死に顔の若さ、美しさに見入る。
VIP席を見上げれば、フェドーラを取り巻いていた怪しげな人々、ゲトワイラーは呟く。可哀想なフェドーラ、まだ生きていたかもしれない。
俺が彼女に会いに行かなければ…。
2週間前、フェドーラを復帰させようとエーゲ海に面した孤島の別荘を訪れたゲトワイラーの回想が始まる。
フェドーラはソブリアンスキー老伯爵夫人、秘書のバルフォアー、バンドー医師と共に別荘に棲んでいるが、ゲトワイラーの訪問はフェドーラを取り巻く人々に阻まれ、近づくことが出来ない。
(フェドーラと伯爵夫人の関係は「親友」ということらしいが、どうも訳ありである)
町でフェドーラの車を見かけたゲトワイラーは車を追い、運転手の目を盗んで店に入るフェドーラを追う。

「フィルムは届いた?」
怪しげな店員は「届いたばかり」だと言う。すぐにでも欲しいフェドーラだが現金がない。
借金もたまっているようで、店員は頑としてフィルムを渡さない。
フィルム…(フェドーラは毎週、これを取りに来ているようで)やばそうな匂いがぷんぷん。すごすご帰るしかないフェドーラに、
「私を覚えていますか?」話しかけるゲトワイラー。
ハリウッドのMGMで彼が助監督をしていた頃、一緒に仕事したことがあるのだ。
そんなことはどうでもいい。「お金ある?」
ゲトワイラーがフィルムの代金を払ってやり、フィルムを受けとったフェドーラは途端に機嫌がよくなる。

ロバート・テイラークラーク・ゲーブル、スペンサー・トレーシー、ジョン・クロフォード…。
時を同じくした名優の名が挙がるが、皆、故人になってしまった。「誰も時間には勝てないわ」
「君は違う、30年前と全く変わらない」
デトワイラーは、売れっ子女優のフェドーラとサンタモニカの海岸でデートしたことがあった。
「昔のことだから…」フェドーラは言葉を濁す。
ゲトワイラーは、今はプロデューサーだと明かして本題に入る。「今度の作品で君にぴったりの役があるんだ」
台本も送ったはずだが、フェドーラには届いていない。「彼ら」が隠しているのだと言う。 
秘書と運転手が現れ、フェドーラを連れ去ってしまう。
デトワイラーは街のバーへ飲みに来たバンドー医師に会う。「昨日、フェドーラを見た。とても62歳には見えない」 
「67歳だ」
「あなたは魔術師だ、仕掛けは?」「1ヶ月冷凍庫に入れて血液を入れ替え、ホルモンを大量に打つ。羊の胎児とヒヒの精液を使い…レーザー手術と細胞移植、指圧を少々、皮膚移植を少々…もちろん強い精神力と食生活の体制も必要だがね。ヨーグルトをどんどん食べる」
「どの部分が真実?」
フェドーラの若さと美貌は、このバンドー医師の手によるらしい。ようやくのこと、「アンナ・カレーニナ」の改作、「去年の雪」の台本がフェドーラに届く。
デトワイラーに別荘からの迎えが来た。彼を迎えたのはソブリアンスキー伯爵夫人(ヒルデガード・ネフ)で、彼女は台本を痛烈に批判する。
そもそもアンナ・カレーニナ」の結末、ふられた女が列車に飛び込むなど、バカバカしい!自殺を考える女が思うことは一つ、死んだ時の姿。死に顔は美しいままでいたい。列車に飛び込むなどありえない。
そこへ、
「あの結末、大好きよ」
とフェドーラ。
フェドーラは室内でもサングラスに白手袋。「先生は奇跡を生むけど、女の老いた手だけは隠せなかったわ」それで白手袋。
フェドーラは、この映画に大乗り気になる。
「ブロンスキー大尉とトロイカで雪原を走る!…ブロンスキー大尉の役は誰?」ジャック・ニコルソン、ウォーレン・ビーティ、マックウィーン…」
よりどりみどりと言えば、
マイケル・ヨーク知ってる?」

「映画でしか見てないが…」「彼がいいわ、以前一緒に仕事したのよ」
フェドーラの最後の映画で未完成だった。なぜ未完成だったかについては、伯爵夫人が遮った。
やる気満々のフェドーラだが、伯爵夫人とバンドー医師は「仕事のできる状態じゃない!」
フェドーラは叫び出し、
「ここに閉じこもってるのはもう嫌!この島とあんたたちから離れてしまいたいのよ!」
ソブリアンスキー伯爵夫人はデトワイラーに言った。
「他の女優を探してちょうだい」
やがて、ゲトワイラーの宿泊する部屋にフェドーラが訪れ、助けを求める。しかしフェラードはバンドー医師―派に連れ去られ、ゲトワイラーもフェラードを救いに別荘を訪れるも…。フェラードの死。
を知らされる。
そうしてファーストシーンの葬儀場に戻る。
ここでゲトワイラーは、ソブリアンスキー伯爵夫人から驚愕の事実を知らされる。
この死体は、フェドーラではない。と言うのだ。
次回、ネタバレ。