「悲愁」(3)

午後遅く、やって来たアカデミー賞委員長、ヘンリー・フォンダ
白いパンツスーツ、黒いつば広の帽子、黒いサングラスに白手袋のアントン(偽フェドーラ)。

「表彰式にエスコートしましょうか?」
と別荘内ではバンドー医師がソブリアンスキー伯爵夫人(真フェドーラ)の車椅子を押して、光景の見える窓際へ。
ヘンリー・フォンダです」
ヘンリー・フォンダこちらのヘンリー・フォンダは髪も薄く、老いぼれている。
共演したことはないわね、などと会話がはずむ。帽子もサングラスも取らずにトロフィー受け取る偽フェドーラ。
窓辺で真フェドーラが感激している。
「35年間も準備していたスピーチを彼女が言うなんて」
ヘンリー・フォンダを見送った偽フェドーラ。トロフィーを高々と振り上げて別荘に飛び込み、車椅子で部屋から出てきた真フェドーラと抱き合う。偽フェドーラ、アントンにとっては大役を見事に果たした安堵と喜び、真フェドーラにとっては感謝だろうか?母と娘の熱い抱擁である。
偽フェドーラの写真は世界中の新聞、雑誌に載った。「フェドーラは変わりなく美しい」
そして、出演依頼が殺到する。「最近のエンターティメントと名乗る映画に皆が飽きてきたのよ。(略)皆、再び素敵なものを求め出した」
そして、
「私が期待に応えなければ」
娘、アントンは喜んで引き受けた。ゲームをするかのように。昔のフェドーラの映画を必死に観て動作や仕草などを真似、年齢を(実年齢より)老けさせる施術をした。
遂に準備が整い、試す時期が来た。
イタリア映画に出演する。フェドーラ復帰は大変なニュースとなる。演技の良し悪しは関係なかった。
次々映画出演し、マイケル・ヨークと共演するまでは問題なかった。

偽フェドーラは将軍の妻で、マイケル・ヨーク演じる義理の息子を愛してしまう。
マイケル・ヨークが初めてフェドーラを映画で観たのは6歳の時。
マイケル・ヨークは当然、共演している偽フェドーラを偽とは知らず、自分より遥かに年上だと思っている。そんなマイケル・ヨークに偽フェドーラが恋をする。「私が彼より年下だと知った時の彼の顔が見たい」それを聞いた付き人(現秘書)は言う。偽フェドーラが正体を明かす時には、真フェドーラである車椅子の老婆を明るみに出すことになるのだと。
「彼女が死ぬまでこんな事、続けるつもりなの?」
「いいえ、フェドーラが死ぬまで。今はあなたがフェドーラよ」驚愕の現実に気づき、偽フェドーラは映画をキャンセル…最後の映画出演となった。
健康的だったアントンは、やがて覚醒剤中毒になる。ソブリアンスキー伯爵夫人の回想終わり、葬儀場。
「彼女の個性も青春も奪った」とソブリアンスキー伯爵が言えば、
「私がすべてを与えた。フェドーラを作り上げた。彼女が対処できなかっただけ」
伯爵夫人がゲトワイラーにスターの条件を問いかけ、ゲトワイラーが答える。「美しく華やかな顔の下には、強い精神力と忍耐が必要だ」
「その通り。彼女はスターかぶれの素人だった」
彼女を別荘に監禁していたのではなく、麻薬治療していたのだとバンドー医師。
列車飛び込みという死に方を選んだのは、「私の顔を破壊しようとしたのね」

メークの専門家2チームが交代で働き、この顔を復元した。
「あなた自身の葬儀ですね」とゲトワイラー。
「終末はとても大切なのよ。人が覚えてるのはそれよ。最後の退場…最後の注目
2時間の休憩を挟んで、再び葬儀場が開館する。
客の中に赤いバラを1本手にしたマイケル・ヨーク無言で棺の遺体にバラを捧げる。
そして、葬儀の6週間後、ソブリアンスキー伯爵夫人と名乗る女性がこの世を去った。