「盲獣」(3)

モデルのアキへのストーカー行為…
から始まって、
異様なアトリエにアキを監禁、触覚芸術を完成させようとする道夫。
何でも道夫の言うことを聞いてきた母親。
アキを拉致するのにも手を貸しました。
ところが…
世間から隔離したアトリエで、母親と2人で暮らしていた道夫と母親。
そこへ、若く魅力的な女、アキがやって来たわけです。
道夫を誘惑して騙し、ここから逃げ出そうとするアキ、
そのアキの誘惑にまんまとひっかかる道夫。
母親は見ていられません。
やがて、道夫を巡る母親とアキの三角関係…。
狭間で苦しむ道夫は、母を死に至らしめてしまいます。
そうして…
ストーカー(変質者)からアキへの恋(男)に目覚め、母親の死によって、
道夫は男として自立します。
道夫はアキに言い放ちます。
「一人前の男になってやる。おまえを抱いてやる」
「おまえは俺のもの、俺が女にしてやる」
まさに…別人。
母親の死によって、生まれ変わったのですね。説得力、あります。
密室に2人だけですから…アキももう、屈服するしかありません。
「おまえ、まだ帰りたいか?」
「もういいの。何もかも忘れてしまった」
男として目覚め、荒々しくアキを抱く道夫に、アキの心も変わります。
彼を愛し始めると同時に、私の目も弱り始めた。
暗闇の中で手触り、肌触り…しか使わないから。
道夫を愛するということは、道夫と同じように、触覚で相手を感じ、愛することなのかもしれません。
アキは変わりました。
「目あきの方がよっぽど哀れ。触覚の素晴らしさを知らない」
「甘くて深くて確かで…。色や形なんて薄っぺら。全然頼りにならない」
そうかもしれない…と思わせます。
視覚によって惑わされてることって多い、ですよね。
「見た目」は、あてになりません。
次第にアキの指先の感覚は異常に鋭くなります。
「目で見るあなたと触ってみるあなた、全然違う」
なるほど〜。
道夫とアキは、
お互いの身体のあらゆる秘密、どんな微妙な部分も知り尽くしてしまいます。
愉しければ愉しいほど、ありきたりの触れ合いでは満足できなくなり、
やがて、
血の出るほど噛み合う、殴り合う、傷つけ合う。
苦しければ苦しいほど、痛いほど、ますます愉しくなる。
まさに、
盲獣
マゾ…の世界でしょうか?
日に日に傷つけ合う道具が変わり…、
「もっと痛くして、もっと傷つけて」
「もっと深く切って、いっそのこと、肉をえぐり取って」
「今度はあなたの番よ」
一歩間違えば、チープなサドマゾ…になりますが、見事な官能の世界…になっています。
泥沼やね。
土の中の母親の死体が腐り始めた頃、
出血と苦痛で弱りきった2人、ろくに食べてないのでしょう。
「私達、もう長くないわね」
「ああ、起き上がる力もない。2人とも寝たきりで死ぬのを待つばかりだ」
「…どうせ死ぬんなら、最後にうんと愉しませてよ。泣き出すほど悦ばせてよ…」
手足を切って、この身体をバラバラにしてほしい、と言います。
道夫はふらつく足取りで壁を伝いながら、奥から出刃包丁とトンカチを取ってきます。
「じゃあ、切るぞ」
「いいわ」
やつれた身体を投げ出すアキ。
その腕に出刃包丁を当て、トンカチを振り下ろす道夫。
アキをバラバラにして、道夫は自ら、自分の心臓に包丁を当てて、自害します。
究極の愛の世界。
脚本の白坂依志夫は、ウィリアム・ワイラーの「コレクター」と、ジョルジュ・フランジュ監督「顔のない眼」を参考にしたそうです。
「顔のない眼」は交通事故にあった娘の顔を元通りにするために、父親が若い女性を誘拐して顔の皮膚を切り取り移植しようとする話。本作の千石規子演じる道夫の母は、この「顔のない眼」の父親からイメージされたそうです。
予告編です。
https://www.youtube.com/watch?v=wVgJvtjD8xQ