「丑三つの村」(1)

「象を喰った連中」「大悪党」と、桂千穂著『カルトムービー 本当に面白い二本映画1945→1980』からセレクトしました。
カルト=崇拝。偏愛、マニアック…ということでしょうか?
この本の扉にある「はじめに」によると、
我々は、「本当に面白い日本映画」を集めたムックを作ろうと、脚本家で、映画評論家でもある桂千穂を訪ねた」とあります。
『一本も見逃さず、面白い映画をチェックしましょう』という桂の提案で、1945年夏からの日本映画のリストを作った。ケアレスミスで見逃すことのないよう、一本一本題名を読み上げ、桂の意見を聞いた」「確認が必要な映画はDVD、VHS、CS放送、映画館、ダウンロード、友達関係とありとあらゆる手を尽くしてもう一度見た」
そうして、1945年から1980年まで、500本前後の「面白い映画」リストができ、そこから厳選した154本が選ばれました。当時、お化け映画やヤクザ映画はとても低く見られて、見ようともしない映画評論家も多かったそうです。「ベスト・テン」に選ばれているような映画は、既に書き尽くされていて、そのような映画は割愛したとのこと。
ですので、この本に紹介されている映画…「誰がために金はある」「女真珠王の復讐」「牛乳屋フランキー」「憲兵とバラバラ死美人」「女死刑囚の脱獄」「女子学園 悪い遊び」「徳川セックス禁止令 色情大名」…ちょっと見たこともないセレクションです。個人的に、タイトルだけでそそられます。桂先生宅に、これらのDVDが宝の山のごとくにひしめいていましたので、徐々にご紹介したいと思います。
では、今回もこの本からのセレクション、丑三つの村」(1983)です。
この映画、1938年に岡山県津山市で実際に起きた殺人事件を元にしているそうです。村一番の秀才が村八分になったことで2時間で村民30人を殺害した津山三十人殺しというそうです。原作は西村望丑三つの村」。ちなみに映画にもなった横溝正史八つ墓村」は、この事件からイメージされたもののようです。
主人公、犬丸継男は村一番の秀才。「天才」とか「神童」とか言われています。
古尾谷雅人が演じます。秀才でも高ぶることのない好青年です。
この村の閉鎖性。
これが、とても重要なポイントになってるんですね。
例えば、継男の先輩が継男に金を借りようとして、
「ちゃんとお金払うて、赤の他人と枕を共にする」
遊女を買うのに金がいる、と言うのでしょう。
そして、
「狭い土地にひしめきおうて、親戚みたいに血つながった人間とようやるな」
などと言います。
意味のわからぬ継男に、
「夜中に村の中、歩いたらわかるよ」
…夜這いなんですね。
確かに、村の中で男女がくっついて子孫を増やすのですから、「血が濃い」と言えるでしょう。
何気に怖ろしいです。
夜這いは未経験の継男ですが、先輩からもらったエロ写真に欲情して…原っぱで股間に手が伸びたところへ、
「何見てるの?」
幼馴染のやすよが現れます。
演じるのは田中美佐子
とっても清楚で美しい、田舎娘さんです。心が洗われます。
継男とやすよ、相思相愛のようで、子どもの頃、結婚の約束もしたようなのですが、
いとこぐらいの関係。
で、互いに遠慮してしまいます。
この辺りも、「村の閉鎖性」出ています。
そうしてある夜、継男は、夜這いの現場を見てしまいます。
池波志乃演じるえり子――現、中尾彬夫人ですが、すごい。
障子に指突っ込んで悶えています。
おっぱい放り出して、見事です。
相手は土地の有力者(夏木勲)。
夫は戦争に行ってるんですね。
夏木がえり子に、
「おかん、ええか?」
などと言ってて、継男も戸惑います。
この「おかん、ええか?」
夏木が自分の妻を思って言ってるのか、えり子も夫に呼ばれているようで感応するのか、わからないのですが、妙にリアルです。
そして…。
すっかりえり子に魅了された継男。
「えり子さん、起きてはりますか?犬丸です。継男です」
えり子を訪ね、夜這いを見てしまったと告げます。
「暑いから脱ぐけど、かまへん?」
えり子の夫は戦争に行ってます。
「男も戦争、女も戦争や」
戦地の夫を待つ妻は…そんなやるせなさ、出ています。
「村一番の男の味て、どんなんやろか」
村一番の秀才は、村一番の男なんですね。
継男をもてあそぶえり子です。
と…。
「なんや、もう出たん。えらい早い鉄砲打ちやな」
で、池波志乃の次は…五月みどりなんですね。
「うちのお父ちゃん、しばらく家開けてるから」
「夜、暇やったら遊びにおいで。女一人の夜って、長すぎるんよ」
って、五月みどり演じるミオコは、「女一人」どころか、子どもが5人くらいいるんですけど。
継男はミオコに、一人前の男にしてもらいます。
このようにモテモテの継男は、やすよにも愛を告白されて…絶好調だったのですが、
徴兵検査で「肺結核」のため不合格になります。
「男は兵隊になって、お国のために働くのが一番」
素直にそう信じていた継男は、絶望します。
狭い村です。
絶望した継男が家路に着く途上に、親しかった人々が継男から目を反らします。
継男は…追い込まれていきます。