「丑三つの村」(2)

この映画、戦地に向かう兵士を見送る場面から始まります。
「××君、ばんざーい!」
ってやつですね。
見送る中に継男がいます。泣いてる母親に同情の目を向けながら、憧れの目で見ています。
汽車で出兵する兵士追いかけてへたります。
村始まって以来の神童と謳われた、犬丸継男。
偉ぶったところは全くなくて、
「俺が兵隊行ったら泣かへんか?」
などと、二人暮らしのおばやんを心配する心優しい青年です。
両親を喪って原泉演じる「おばやん」と二人暮らし。
このおばやんも孫が自慢で目の中に入れても痛くない。
村のヒーローで「村一番の男」などと女(池波志乃)からちやほやされて、熟女(五月みどり)に「一人前の男」にしてもらい…相思相愛の可愛い幼馴染(田中美佐子)までいる。
しっかり者のばあちゃん(原泉)に溺愛されて、世間知らず、苦労知らずの坊ちゃん的継男です。
幼馴染のやすよに「徴兵検査甲種合格」勝ち取って兵隊になると宣言し、やすよから、
「昔は兄妹でも父娘(おやこ)でも結婚したそうやけど」(継男とやすよは『いとこ』ぐらいの関係)
などと逆プロポーズまでされてます。
まさに、人生の頂点。
頂点から、急転直下。
それは、
徴兵検査で不合格。
結核で戦争に行けなくなったのです。
先生になるより兵隊になりたかった継男です。
挫折なんて、知らずに成長したでしょう。
青天の霹靂でした。
「こんな体で帝国陸軍の兵隊がつとまると思うのか?!」
検査会場の石段で、子どものように継男は泣きます。
検査からの帰り道、村人に継男は挨拶しても無視され、目が合うと逃げられます。
継男不合格の噂は、電光石火の早業で広まってるんですね。
最初は映画的誇張かと思ったけど、或いは…リアルな反応かも。
継男は村のヒーローで、継男「徴兵検査不合格」は、狭い村では号外ですから。
いずれにせよ、ちょっと笑えます。
落ち込んだ継男に村民の反応はたまりません。
そこへ、継男を溺愛するおばやん、原泉の存在が際立ちます。
「今、ひょいと見たら、こんなにぎょうさん産んどる。おまえに食うてもらお思て、畜生も頑張ったんや!」
笊(ざる)に生みたての卵をもって来ます。
徴兵検査不合格は、おばやんにとっても耐え難い現実だったでしょう。
それを乗り越えたおばやんの愛情、伝わります。
「こんなもんで治るんやったら、とっくの昔に治っとるわ!」
継男は笊の生卵を床にあけます。
当時、生卵は貴重品だったでしょう。割れ残った卵を大切に扱うおばやん。落ち込む孫を立ち上がらせたい…そんな必死の思いが伝わります。
継男も我に返って謝ります。
「おばやん、ごめん」
生卵を食べます。
「もひとつどうや?」
食べながら、継男は自分の両親が死んだ理由を尋ねます。
継男の両親も、どうやら結核だったようですね。それをおばやんは懸命に隠そうとしますが、継男にはわかってしまいます。
遺伝なら、頑張ったところで逃れようがありません。
「下手な嘘はいかん」
言いながら、生卵を食べる継男、哀しく見つめるおばやん…。
名シーンだと思います。
「ごめん、お父ちゃんらがうるさいんよ」
相思相愛の幼馴染、やすよから別れを告げられます。
やすよは嫁に行くことになりました。
「病気がどやから言うて、よその人のとこ行くのとは違う」
健気です。
「前の継やん、わたし、大好きやったよ」
捨て台詞残して立ち去ります。
踏んだり蹴ったりの継男、この世の果て…です。その上、
えり子(池波志乃)に夜這いすると夫が帰っていて、
「もう来んといて」
一人前の男にしてくれたミオコ(五月みどり)には、
(事が終わった後)キスを拒まれ、「元々、嫌いやったんよ」
他の女にも、
「毎日ぶらぶらしてて、何が夜這いじゃ!」
「兵隊にも行けん、半端もん」
などと…。
継男は壊れていきます。