「丑三つの村」(3)


村の閉鎖性…と前に書きました。
よそからこの村に来たタダアキが、暴れん坊で好き勝手やってるんですね。
それをやすよが、
「あの人、殺されるんかもわからん」
と継男に囁きます。父親と村の顔役(夏木勲)が相談していたと言うのです。
今まで村が平和にやって来れたのは、よその人間を入り込ませなかったから。
確かに、よそ者に好き放題やらせてたら、村の治安は保たれません。
いつもの無邪気なやすよの顔ではありません。
陶器のような女の顔です。
「村に必要のない人間は、この山に埋めたんかもしれん」
俄かには信じられない継男でしたが…。
夜道でタダアキが村の連中に犬畜生のように叩きのめされているところを目撃します。翌日タダアキは、
大木の上から宙吊りでぶらぶら…
村人と駐在、どうやら「自殺」ということに…。継男が、「自殺やない」と主張しても、やんわりと、しかし堅固に無視されます。
やすよの言った通り、タダアキが殺されたのです。
「みんなが右言うたら右、左言うたら左…。それで何もかもうまくいく」
余計な説明はなく、タダアキのことで落ち込む継男におばやんは言い聞かせます。
色んな現実を呑み込んで呑み込むしかなく…今のおばやんがあるのでしょう。
おばやんの息子か娘が結婚して生まれたのが継男ですから、「おじやん」もいるはずですが、別れたのか死んだのかもわかりません。
息子夫婦か娘夫婦かはどちらも結核で亡くなり、おばやんが継男を育ててるんですね。
おばやん演じる原泉…昆布から出汁(だし)が染み出るような演技です。
「俺も殺されるかもしれん。…妙な人間は山に埋められる」
タダアキを叩き殺した村人、駐在、やすよやおばやんのように、この村の現実を呑み込めず、従えない…そんな不安でしょうか。
廣川鉄砲店で鉄砲を買い、
「犬丸継男の戦場マップ」
をこしらえた継男です。
「おばやん死んだら好きなことしてええ。生きてるうちは悲しませんといて」
村始まって以来の神童から階段を転がり落ち出した継男に、おばやんは切実に言いました。
この約束を継男は守ります。
嫁に行ったはずのやすよが、出戻ってきます。継男と親しかったことが離縁された原因のようです。
風呂場(野外に小屋のようにあるんですね)で湯を遣ってるところへ、継男が現れ…。
相思相愛の間柄です。俺と結婚しよ、俺の子を産め…。
「天才と別品さんの子や…」
やすよも拒みません。ところが…
継男が湯船に大量の血を吐きます。
その血の混じった湯を、継男が開き直りのように手桶ですくって頭からかぶります。
やすよも同じようにして、血の混じった湯をかぶります。
継男はそのまま…立ち去ります。
捨て身で継男を愛したやすよでしたが…
「村の人が、継やんが、そのうち何かしでかしよる言うてる」
離縁され、出戻ってきたやすよですが、またの嫁入りが決まったそうです。
「うち、寂しがり屋やからいかん」
万感の思いでしょう。いくら継男が好きでも、「好き」だけではダメ、守られたい。
「女だけ違う。寂しいんやで、男かて」
継男とやすよ…心から求め合います。
「好きにしてええ。かまへんよ、こんなもん減らへん」
再度の嫁入りが決まったやすよですが、継男にすべてを許します。
「まぁ、皆さま方よ。今に見ておれでございますよ」
今で言う劇場型犯罪なのでしょうか。
やすよへの手紙を書きます。
「僕は戦場へ行きます。10月20日、戦場へ行きます。その日。村には絶対近づかないでください。…鬼になります。…本当にさようならです」
血のように赤い夕焼けの中、電柱に上って電線を切ります。
25時。
丑三つというのは夜中の1時から3時。この映画の村は「日暮谷(ひぐれだに)」と言います。
丑三つの村」というのは、この、事件の起きた時刻の村を指しているのでしょうか。
床から起きた継男は素っ裸になり、白褌(ふんどし)。学ラン着て、鉄砲に日本刀差します。
両耳の上に懐中電灯(「八つ墓村」ですね)ゆわえて、胸にも電灯ぶら下げます。(電線、切ってますから)
そして、最初に、おばやんを殺します。
「おばやん死んだら好きなことしてええ。生きてるうちは悲しませんといて」
これに従って、「好きなこと」する前に、おばやんを死なせるんですね。
「笑おて見送ってくれ!」
斧で一撃です。これは、「俺が兵隊に行ったらどうする?」と継男が聞いた時に、おばやんが「笑おて見送る」と言ってくれた、これに符号します。
継男にとって、これからのことは、「戦場に出る」ことなのです。
おばやんを殺してから、
「犬丸継男君、バンザーイ、バンザーイ!」
自分を戦場へ送り出します。
それからは…頭に二つの懐中電灯備えた継男が、顔を返り血で真っ赤にして、殺しまくるわけです。
「わしら、おまえの悪口言うた覚えないわ」
という家族は見送りました。
手紙受け取り、慌てたやすよが駆けつけます。
「手紙もろて、慌てて戻ってきた」
「まだ3軒残っとる」「時間あれへん」「肝心の奴(村の顔役、夏木勲)やれなんだ」(殺せなかった)
「俺はこれで終わりや」
やすよに手紙を書き、おばやんを一番に殺し…頭に懐中電灯ゆわえて狂乱状態の継男ですが、頭の中は実に明晰です。
そして、やすよの腹に頭をうずめて、
「心臓の音や、産みや。俺のやや子に、よう覚えたってくれよ」
自分の血を受け継ぐ新たな命に、希望を見たのでしょうか。
殺戮を終えた継男は、
「俺は河原の枯れススキ、同じおまえも枯れススキ。どうせ二人はこの世では、花の咲かない枯れススキ…」
「皆さま方よ、さようならでございますよ」
銃口を口にくわえ、足の指で引き金を引きます。