禁断(3)

ちょっと話は反れるのですが、近親相姦が社会通念から逸脱するのに対し、近親婚というのは、それほどでもないですよね。古代エジプトの近親婚は誰でも知ってるし、「近親婚」が容認されてるどころか、奨励されていたそうです。血統の純潔を守るために。
日本でも、古事記」「日本書紀」には、王族、皇族の間で異母兄弟、姉妹などの近親間が多数登場するとか。日本史の上でも少なくない。
政略結婚みたいなものとして、特別不潔な感じがしないんでしょうか。
現在は、日本国憲法第24条では『婚姻は、両性の合意のみに基いて成立』とあり、近親者間の性交自体を法律上禁止しておらず、また近親者間の事実婚認定も阻害されないが、日本国憲法第24条に基づき制定される法令により、近親者間の婚姻に係る婚姻届は受理されず、誤って受理されても後に取り消し得る
つまり、近親相姦やってもええし、夫婦みたいに生活しても法的には問題ないけど、「婚姻」の事実は認められない。
なんか…矛盾を感じますが…。
まぁ、よろしい。
私がこの「魔の刻」を読んで、画期的だと思ったのは、
日常の中の近親相姦
が描かれてるところなんですね。ブログ読者のカツラーさんが、近親相姦で思いつくのは…として、
夢野久作「瓶詰めの地獄」、横溝正史「蔵の中」
と教えてくださいました。どちらも映画化されてますね。確かに、耽美的アプローチなら、作品は色々ありそうです。
ただ、ザコンファザコン、シスコン、ブラコン…が普通にあるなら、
父も母も兄も姉も弟も妹も、男と女なわけで、一つ屋根に暮らしていて、色んなことがあるわけで、
したり欲情したり、嫉妬したりってないんでしょうか?
誰だったか、昨年、お亡くなりになった某石堂先生かな…?先生には息子さんしかおられず、
「娘がいなくてよかった。娘がいたら、犯してたよ」
とか言われたのを、非常に納得して聞いていた私でした。先生が異常性欲の持ち主だというのでなく、非常に情の深い方なので、娘なんぞがいたら、異性関係にいちいち嫉妬して、門限に朝帰り…タダゴトでなくなるような気がしました。
別に、家族に対して、
したり欲情したり、嫉妬したり…
が自然…では勿論なくて、でも、あったとしても、不自然ではないような…
気がしていたのでした。(私個人については、そのような経験はありませんが)
この辺、突っ込むと収集つかなくなるのでやめます。
結局、母と息子の一線を越えてしまった涼子と深(ふかし)…。43歳と19歳の蟻地獄…。
涼子の夫、深の父親である彗一郎は、二人のベッド(布団だけど)シーンを目撃してしまいます。そして、
母(涼子)を巡る、父と息子の三角関係が描かれる。
これ、凄いと思いました。
シェイクスピアとかギリシア悲劇とか…義理の関係ならあったような気もするけど、一般家庭ですよ。
前回述べたように、この関係に母、涼子は苦悶するものの、息子、深はあっけらかんとしています。母の半分の人生も生きていないということもあるし、若さ、ってこういうことなのか…とも考えさせられます。深が涼子に言います。
「離婚するんだろ。あんたたち夫婦。僕は、独立までには結構長い時間がかかるし、あんただって、いまさら四十面さげて働きたくないだろう。ぎりぎり限度まで頂いちゃおうよ。僕、いまより生活水準落とすの、ごめんだぜ。六畳一間のアパートぐらしなんて、十年前のフォークソングみたいで、ダサイもんね。僕が、あんたを丸抱えできるようになるまで、財産食い潰すほかないだろう」
離婚した場合、父親に慰謝料をいくら請求できるのか、ということなんですね。離婚して父親がこの家から出て行き、後は涼子と深、当面は慰謝料を頼みに二人で暮らす、という計画を深は練っているのです。涼子は「あきれて開いた口がふさがらなかった」とあります。苦労もなく育った19歳とすれば、リアルなのかなあ、という気もします。またこれ、先に挙げた
日本国憲法第24条では『婚姻は、両性の合意のみに基いて成立』とあり、近親者間の性交自体を法律上禁止しておらず、また近親者間の事実婚認定も阻害されない
に、見事に合致しているんですね。法的には問題ないわけです。
彗一郎は悩んだ挙句、息子に対して、アメリカへの留学を提案します。それに対して、深は父親に臆面もなくこう言います。
「あの人とは別れるんだろ。僕がアメリカへ行っちゃったら、あの人、ひとりぼっちになってしまうじゃないか。僕、あの人を残して外国へなんか行けないよ。僕は、あの人と、一生、二人だけでくらしてゆくつもりなんだ」
涼子はもはや、母親でなく「あの人」なんですね。19歳の深にすれば、いくらでも「若い綺麗な姉ちゃん」がいそうなものですが、そんなのは眼中にない。深なりの涼子への純粋な思いが伝わります。
彗一郎は「背すじが寒くなった」とあります。そして、

「父さんには悪いと思っているよ。つまりは、父さんの女を奪ったんだからね。うしろめたい気持ちもあるよ。でも、あの人とそうなったことは、悪いと思っていない。僕は、あの人を愛しているし、愛している人とセックスして当然だろ。別の男から女を奪うってのも、世間にはよくある話じゃないか」
彗一郎は、「妖怪でもみる思いで、しばし息子を眺めていた」――。でも、父親としては、眺めてばかりもいられず…。「近親相姦」について説教する。と…。
「(略)近親相姦が禁制(タブー)なのは、社会的な混乱を招くからだろう。秩序が乱れるからだろう。奇形児が生まれる確立が高いからだろう。僕とあの人の場合は、そのどれにも該当しないじゃないか。それなのに、どうしていけないのさ。僕は、少しも悪いことだと思ってないよ。好きになった女が、たまたま、おふくろだった。それだけのことじゃないか。(略)」
う〜む。「好きになった女が、たまたま、おふくろだった」――。改めて、凄い台詞ですね。
「父さんが、近親相姦を怒っているのなら、僕はまったく無視する。自分の妻を別の男に奪われた男として腹を立ててるのなら、僕は、床に手をついて詫びるよ。どっちなの、父さん」
やっぱり、この小説、凄い。
今回で終わらせるつもりだったけど、終わらない…(汗)