入試(3)
夫からは、αを試験場に送り届けたというメッセージが届いていた。
「ご苦労様でした」
と返信すると即座に、
「そっちはどうだった?」
「MRI終了」
「ご苦労様」
こちらは「ハゲババア」のトゲが刺さったままなど、知る由(よし)もなさそうである。私は刺さったトゲを光の中に出すことにした。
「『ハゲ散らかした』とはどういう意味?」
今朝、MRIを受けるとメッセージした私に『好転してるとよいな。ハゲ散らかした甲斐があるってもんだ』――と返されたのである。
「抗がん剤治療で苦労したって意味だが…」
案の定、何もわかっていない。苦労したのは私だけだから、夫はねぎらいや励ましの意味で言ったのだろうか?
「ギャグのつもり?」
と返す。ようやく気づいたらしい。
「軽口。かんにさわったんなら謝る」
と土下座マーク3個。私はさらにとどめを刺した。
「『ハゲババア』の次はこれ?」
返す言葉もなかろう。「悪うございました」と謝られるが、悪気は全くないのだから、似たようなことがまた起きる。(今までもあった)それは、夫のせいではないのだろう。送るか送るまいか迷った。迷ったが、送る。送らなければわからない。
「あんた、怖い」
夫には今まで、メッセージで「あなた」「あーた」と言ってきた。「あんた」という呼びかけは初めてだった。夫は「怖い」という感想の意味がわからないと言うので、
「『デリカシー』の範囲を越えてるってことかな?(『ハゲババア』と)言ったことをまるで忘れてることにも驚いた」
返信はなかった。
夫から「ハゲババア」と言われたことを主は聞いておられる、と思い、導きを祈った。これが導きなのだと実感する。メッセージだから冷静にやり合えたし、お互いに言葉を選べた。
後は、主が夫に語ってくださることを祈る。
今までは、病院を出る私は元気だった。やるべきことを終え、空腹もあって何を食べようかと考えるのも楽しかった。しかし、今日は気力も食欲もない。ここへ「▼大学不合格」が追い打ちのようにあるのか、と思うとやりきれない。
そろそろαのスマホに合否結果が届いていてもおかしくはないが、Lineで聞く勇気もない。とはいえ、「合格」かもしれないし、「合格」を聞けば、心は一転、晴れ渡る。逆に、「不合格」なら、どうなるだろう?
〇か×かわからない時が一番苦しい、ということがある。×だとわかってしまえば、大したこともなくなる。今回のこともきっとそうだ、と思い始める。もはやあきらめモードで一寝入りする。
目覚めると、αは帰宅していた。合格ならば私を起こして報告するだろう。自室にひきこもっているというのは……(/_;)
果たして、
不合格であった。
入学金を収めた滑り止め大学というのは、1、2年次のキャンパスが隣県の田舎の駅で、そこからまたバスに乗る。果たして、1限の講義に間に合うには何時起き?という心配が一番にあった。何かにつけ要領の悪いαにあっては、通学だけで消耗しそうだ。その辺のところ、本人はまだ把握していない。
夫からは返信のないまま、αに父親には不合格を報告したのか確認すると、したと言う。
「今日はどうだったの?」
初めて弁当を持たせなかった受験であった。
「大学が近くてよかった」
帰りがけに買った小物を見せてくれた。滑り止め大学とは違い、ここからも駅からも近い。試験の出来栄えを聞くと、
「現国はバッチリで古典は△△、英語は〇〇…」
2教科受験だったようで、これほど具体的に報告したのは初めてだった。手ごたえを感じているもようで、明るかった。この大学に通えるといいな、と思う。
「受かるといいね」
▼大学に落ちたことなど、どうでもよくなった。