まな板の上の鯉(2)
女性のがんの中で最も発生率が高いといわれる乳がん。私のごく身近な人にも数人発生者がいる。私が病院に付き添った人もいたが、その人たちにも相談しなかった。検査を終えて結果が出てからならまだしも、検査を受ける前に話すこともない気がした。
要は、白か黒、良性か悪性。気休めもなぐさめも必要なかった。
また、主にある兄弟姉妹(同じ信仰をもつ人たち)に打ち明けて、祈ってもらうこともしなかった。検査を受けることは、結局、誰にも言わなかった。
主によって、幾度も苦しみを喜びや感謝にかえられた私には、
良性=○、悪性=×
ではないと思った。悪性ならば、おそらく入院、手術、治療…となるのだろうが、それが結果として、私に恵みを与えることにもなる。
これは、イエス様を知っているからこその境地であり、イエス様を知らなければ、胸のしこりに気づいてからの私は、おそらく尋常ではいられなかった。
そうして、検査当日。日当たりのよい待合室で順番を待ちながら、私は平安だった。診察室は二つあり、中から男性の声が聞こえて、男性医師に診察されるのかと思った。しかし、それも、
すべて主の御手から受け取れますように…
と祈っていたから、男性医師に診察されることが主の御心なら、受け入れるしかないと思った。それが最善なのだと。すると、
名前を呼ばれて診察室に入ると、中にいたのは女医だった。それも、30代の綺麗な人だった。
私の胸を触診した医師は、「確かにしこりがありますね」と言った。それから、マンモグラフィや超音波、しこりの細胞を調べる検査をすることを言われた。そして、
「これは皆さんに聞いていることなんですが、ご家族にがんになった方がいらっしゃいますか?」
「いません」
家族どころか、親類縁者、「がん」の話を聞いたことがない。そうして、
まな板の鯉
されるままに検査を受けた。検査を受けながら、看護師や医師が、「ちょっと痛いですよ」「大丈夫ですか?」…とこまかに気を遣ってもらえるのを、ありがたいことだと思う。大した痛みではなかった。
すべての検査が終わった。30代の綺麗な女医が、検査後の諸注意をしてから、
「何か質問はありますか?」
と聞かれ、
「ありません」
検査結果は2週間後で、その予約を取る。
30代の綺麗な女医を見ながら、私は、しこりが悪性(=がん)で入院、手術…することになり、その中で、「この人(女医)にイエス様を伝えることになるのかなぁ」とちらりと思う。入院すれば、看護師や同じ病室の方々に、福音を伝えられるかもしれない。
また、母親がガンで入院するとなれば、あの娘達も目覚めるところがあるのではないか?
そのために、(私は)用いられるのだろうか???
午前10時、病院に入ってから、およそ2時間後、病院を出る。2週間後に結果を聞く。
結果はわからないけれど、どちらでもいいのではないかと思う。いざ、「悪性(=がん)」の結果が出て、冷静でいられるとは限らない。しかし、今、「がん」というものを通して、メガネをかけかえたように、視界が変わっている。このことを覚えておきたい。