家庭教師(3)
高校3年になれるか2年をやり直すかがかかっている、速達で配達されてきた数学の課題。
締め切りは3月24日、朝。
そして、前日の23日。
娘俵は一向に焦る様子もなく、午後まで寝る。
朝方まで課題をやっていたにしても、10時間以上は寝ている。
俵は午後4時に起きて、午前4時に寝たことを「徹夜」と言うのである。
そして私は知っている。
俵の問題解くのが、ものすごくのろいことを。
ガミガミ言う気力もなく、また、それは逆効果だとも思うので、夕方、机に向かう俵に
「大丈夫?」
と聞いてみた。
「うん」
と答える。その答えが、はなはだアテにならないことも周知である。
けれどもう、17歳の娘に、今更尻を叩いたところでどうにかなるだろうか?
もう、運を天に、否、神にまかせるしかない。
「もう終わるの?間に合う?」
確認するくらいならいいだろう、と自分をなだめる。俵は、
「もうあと、数問」
と言った。数問…ならば、よかろう。
午後11時頃、俵が家庭教師にラインで質問しているのがわかった。
やれやれ…である。そうして、俵がトイレに席を立った折り、ふと、疑念がよぎった私は、俵の課題問題をめくってみた。
「……………………………………………」
あと、数問
と確かに俵は言った。しかし、現実には、
あと、数枚
だった。
頭の中、真っ白…である。
トイレから戻ってきた俵に、課題プリントをたたきつけ、
「これはなに!!!!」
俵はただ、ダンマリ。
私に説教する余力も時間もなかった。
俵を子ども部屋からリビングに場所を移動させ、
「あと数問」などと、ぬけぬけ嘘をついたことが我慢ならず、新聞で叩いた。
今更、家庭教師に連絡もできない。夫に電話しようかとも思ったが、夫に数Ⅱの問題が解けるならまだしも、いたずらに騒ぎを大きくするばかりと忍耐した。
本当に、課題が出来ず、俵は進級できないのかもしれない。
しかし俵を、そんなふうにつくられたのは神だから、その責任は神が取ってくださる。
俵を一人にして、私は書斎に入って祈った。
このまま進級しないことが、俵にとっては幸いなのかもしれない。
俵にとって最善の道を整えてください、と祈る。
俵のオイオイ泣く声が聞こえた。
「なんで泣いてるの?」
「わからない」
「泣いてたら解けないでしょう」
「解けるもん」
そうして、朝方近く、俵は課題をやり遂げたのである。
正誤は無論、わからない。
ダメ答案で進級不可かもしれないが、それはもう、神の御手の中である。
そうして…
朝、目覚めると9時を過ぎていた。
びっくりして子ども部屋に行く。
と…
俵の姿はなかった。まさか…。
帰宅した俵は、無事に課題を提出したらしい。朝のことを尋ねると、
「起きれる自信がなかったから、徹夜した」
なんとまぁ……。
よかった。