「デッドマン・ウォ−キング」（３）

特赦審査会で特赦は下りず、一週間後の死刑が決まったマシュー。
事件の被害者とは縁も所縁もない…どころか、ただの映画観賞者でしかない私でさえ、

こんなん（マシュー）に特赦が下りたらどうなんねん。
神も仏もないで。
と言いたいところだ。
確かに、無実の罪で十字架に掛かったイエスは、自分に振りかかった苦しみを嘆くどころか、
「父よ、彼らをお許しください。彼らは、何をしているのか自分でわからないのです」
（ルカの福音書　23章34節）
などと、父である神に、自分を十字架に掛けた奴らの命乞いをする。
聖書の中でも、やられたらやり返すのではなく、「復讐」は主がしてくださる。
自分を空にして、すべて主にお任せする。
確かに、これなら争いは起こらない。
しかし、
（被害者の親にすれば）我が子を惨殺した相手の死を、望まないでいられるか？
マシューから精神アドバイザーになって欲しいと言われたヘレンは、承諾する。
引き受けたくなくとも、引き受けるしかない。
ヘレンは被害者の親を訪ねる。

「あいつの心配に忙しくて我々を助ける気はないのか」
と、審査会後にヘレンに感情をぶつけたカソリック信者の父親は、一人息子を喪い、妻とも不仲になる。
（後に離婚。「子どもを喪った親の70％が離婚する」と語る）
18歳の娘を突然喪った両親は、その悲しみ、苦しみをヘレンに訴えた。
娘は全裸で脚を広げられ、恥部は傷だらけ。あまりにむごい姿で、死体現場に行かせてもらえなかったと。
「なぜ考え方を変えたの？」

母親に問われるヘレン。
ヘレンがマシューの味方になることをやめて、ここへ来たと思ったのだ。
考えを変えたわけではなく、マシューの精神アドバイザーとなったとを告げると、凄まじい怒りが返ってくる。
「子どもを産んでないからわからない」「神が間違って創ったあの男」「神に祈ってそれで解決」「尼さんだから我慢してたが――出てってくれ」
死刑間近になっても、マシューはヒットラーを尊敬しているとか、万が一（上訴審が通って）死刑を免れたら爆弾テロ犯になりたいなどと、反省の兆しもない。
犯人の片割は終身刑で死刑を免れ、「俺は犯人じゃない（見ていただけ）」と訴える。
さすがのヘレンも、どうしてこんな男のために…と呟いてしまう。
ヘレンの仕事は、被害者の親を労わることでも死刑を中止させることでも、マシューを慰めることでもない。

神に仕える者として、
マシューに自分の罪を悔い改めさせ、魂の救いを与えること
である。
ヘレンは、あの夜、マシューが2人の死に、どのように関わったか聞き出そうとするが、マシューは答えない。
「聖書を読んだ？」
尋ねるヘレンに、
「俺と神は折り合った。キリストは俺の罪を償い、審判の日に助けてくれる」
確かに、イエス様を信じれば、死後は天国と聖書にある。
「キリストが切符代を払ったからタダで救いが得られるものじゃないのよ。自分も努力せねば」
そして、最後の頼みの綱だった上訴審（知事には死刑中止の権限がある）は棄却。
当然やろ。
「ブーツは処刑に履いていく」「奴らの親は死刑を見物」「（犯罪は）ヤク（薬）のせい」
死刑執行は明日。
「神様、お救いを――。最後まで彼に勇気をお与えください」
「我々に最後まで力をお与えください」
トイレに駆け込んで祈るヘレン。
死刑執行は午前12時。
30分前、家族との最期の電話で「ママ、愛してるよ、愛してる」と囁くマシュー。
弟に母親のことを頼んでいる。
死刑執行まで分刻み、精神アドバイザーとしてヘレンはマシューに最期の最期まで付き添う。
ヘレンにとっては拷問だが、マシューにとってはどれほど救いになるか。
マシューは告白する。

「あの若者、ウォルターは――」
「何なの？」
「俺が殺した」
万感の目でマシューを見るヘレン。
「ホープは？」
「殺してない」
「でもレイプを？」
「ああ」
「２人の死に責任を感じてる？」
「感じてる」
「昨夜、消灯後、ひざまずいて彼らのために祈った」
ヘレンは言う。
「あなたはこれで、人間の誇りをもって死ねるわ」
「あなたは神の子よ、マシュー」
これから死に臨む囚人に、これ以上力強い言葉があるだろうか？
「俺は真の愛を知らない。本当に愛した女もいない――死ぬ時に、初めて愛を知った」
「愛をありがとう」

死刑執行まで19分。
マシューに乞われ、ヘレンは鉄格子越しに讃美歌を歌う。
歌い終わると、
「廊下に出てください」
ブーツで死刑場へ向かうはずのマシューだが、現実には、
オムツにスリッパ。
手足を施錠され、大勢の看守に囲まれて刑場へ進む。
「シスターの手を」
とマシュー。
「いいだろう」
ヘレンがマシューの肩に背後から手を置き、ともに歩く。
「死刑囚が行くぞ（『DEADMAN　Walking』）」
看守の声。
…ここで終わらず、映画は尚も、執拗に続く。

ギリギリまで、妥協なく、マシューの死刑をリアルに描く。
マシューの悔い改めも。
私の筆力では及ばないので、後は、映画でご覧あれ。
力尽きた。腹減った。
最後に予告編（CM後）
https://www.youtube.com/watch?v=zFWmN1GyDhE