「徳川セックス禁止令 色情大名」(4)

1972年、GWに公開された東映映画。
徳川家の34番目の清姫が性的に訓練され開花するプロセスを、実にコミカルに丹念に、ユーモラスに描いています。
一方で、白人(サンドラ・ジュリアン)の側室に女の切腹、34歳まで童貞だった殿が出した「閨房(セックス)禁止令」、清姫とサンドラのレズシーン…など、見所満載、オンパレード!
もうちょっと出し惜しみすればいいのに…。

もう、才能が溢れて整理できましぇん、てとこでしょうか?
脚本は掛札昌裕、先日、桂先生宅に行って、
「掛札さんて天才ですか?」
と聞いたら、
「天才です」
と…。
掛札さんのことを書くと長くなるので、割愛しますが、同じく鈴木則文監督とコンビを組んで、1974年、多岐川裕美主演「聖獣学園」を脚本しました。
鈴木監督がスカウトした多岐川裕美、これがデビュー作のようです。脱ぎまくり、拷問シーンまで演じて…大ヒット。
元慶応ボーイでポーカーフェイスで、無口で自分のことは何も語らず…。
桂先生とは、とてもウマが合うそうです。(毎月、『面白い映画を見る会』と称して、DVD鑑賞会を先生宅で開いている)
で、
(色んな意味で)ここまでやるか。
というシーンが目白押しな映画なのですが、どうしても気になって仕方ないのが、
キリスト教
「生きたフランス人形」として、殿に献上されたサンドラジュリアンは宣教師の娘。
サンドラも十字架を首にかけています。
宣教師の娘が、どういう事情で博多屋の手によって日本に売られてきたのかは説明されていません。

そして、渡辺文雄演じる博多屋が、
転びバテレン
なんでや!
イエス・キリストを信仰してたのが、幕府の「キリスト禁令」によって、寝返った(信仰を捨てた)のですね。
どうも、サンドラの父親によってクリスチャンになったようです。
信仰を捨てて、大商人となった博多屋ですが、イエス・キリストを裏切った、というトラウマがあるのでしょうか。
「宗教で腹がいっぱいになるのか!」
フランス語で(なんでや!)サンドラを責めたてます。
キリスト信仰に対する怒り、憎しみ…。
キリストの名において、博多屋がサンドラをいたぶります。
ジャズのBGMにのって…
イエス・キリスト肖像画まで出てきます。
「サンドラ、おまえの主(あるじ)は誰だ?」
この時の博多屋とサンドラのやりとりが、何故かフランス語。
「おまえの主はこの私だ。ゼウスではない。この私なのだ」
「おまえに、これを踏めるようにしてやる」
渡辺文雄の脂ぎったアクの強い顔が、役にはまってます。
博多屋は、サンドラが首にかけていた十字架をちぎってベッドに投げ捨てます。
そして…
博多屋の目に、十字架が突き立てられます。
これ…何映画?
少なくとも、私の知っている日本のポルノ映画ではない。
博多屋を殺してしまったサンドラ。
崖から身投げしようとしたところへ、許嫁(いいなずけ)の梢を切腹で喪った忠輝の家臣、森田勝馬が現れます。
「おまえの命を、この俺にくれ」
ともに生きる望みのない身体。それならば、
「俺とおまえが、死をもって殿をお諫(いさ)めするのだ」
あの時は、忠輝の命で梢が切腹させられたけれど、今度こそ、
自分が死ぬ。
覚悟で、勝馬は忠輝の寝床でサンドラを抱きます。
忠輝がそれを見つけ、
「おのれ、余の側室と密通致したな!」

「殿、私のこの姿を一生、忘れてくださいますな。この世に禁令を出す権利は、誰にもございません。将軍家にも…」
成瀬正孝、いいですねぇ。
「サンドラだけはご助命のほどを…」
梢のことがあったからでしょう。サンドラの命乞いをすると、
「ごめん!」 
刀を自分の腹に突き立てます。
サンドラが、自分の首からはずした十字架が、勝馬の胸に…。
腹に刀を突き立てた勝馬は、忠輝を見据えます。
命懸けの懇願。
説得力…ありすぎ。
(ポルノを軽蔑してるわけではないけれど)もはや、ポルノではない。
勝馬の死に、さすがの忠輝も反省を余儀なくされます。
そこへ、サンドラとレズった清姫が、
「殿、サンドラの処刑だけは、お取りやめのほどを」
「サンドラが処刑?!」
白馬にまたがり、忠輝はサンドラの処刑場へ駆けつけます。
なんと、サンドラは浜辺で逆さ磔(はりつけ)にされてるんですね。
浜辺に波が打ち寄せ、サンドラの頭が水浸しになります。
逆さ磔と言えば、「鶏が鳴く前に三度わたし(=イエス)を知らない」と言った弟子ペテロが、皇帝ネロによって殉教の死を遂げるに至り、イエス様と同じ十字架刑ではもったいない、と逆さになった、という伝説を思い出します。
「誰の許しを得て、サンドラを処刑致した!」
「禁令を破ったものは、全て処刑されます。法は既に殿の手を離れて、生きております」
説得力、ありすぎ。

閨房禁止令は解禁…。
忠輝と清姫も、心から深く愛し合うようになるのですが…。
その果てが…(凄い)。
ラストのテロップが…
「あらゆる生命の根源たる性を支配し管理検閲することは、何人にも許されない 例え、神の名においても――」
はい、参りました。
最後に、この映画を撮った鈴木側文監督は昨年、亡くなりましたが、教会で葬儀が行われ、どうも、クリスチャンのようです。
今、調べたら「聖獣学園」の原作(漫画)も鈴木監督のようです。