「折り梅」(3)

ボケ老人と介護する嫁(家族)の日常…。
それが、深刻でも暗くなく、爽快感さえ感じられるのは、嫁の巴の優しさであり、賢さなんだろうな、と思います。
実の娘でもここまでできない。嫁姑になっていないところがいいです。
政子を施設に預けようとして、結局できなくて、連れ帰る巴。
「お義母さんのお母さんて、どんな人だった?」
巴が政子に聞きます。
政子は父親を5歳で亡くし、母親は料理屋に働きに出て、なかなか会うことができません。評判の美人だったそうです。

回想シーンの「おかやん」は、浅黄色の着物に髪を綺麗に結い上げています。
おかやんが座敷で梅を生けながら、
「梅は皮から養分を摂るから、折った枝でも土から栄養吸って立派に育つ」
そうして、梅の枝を力任せに折り曲げて撓(しな)わせ、花瓶に挿す。花はちゃんと咲く。
これを「折り梅」と呼ぶそうです。そして、
「梅は桜よりよっぽど強い」
と言います。
政子は、子どもが自慢するように巴に言います。
「梅は母の木。強くて綺麗なおかやんの木」
そんな素敵なおかやんでしたが…、
「いつの間にか、待っても待っても帰ってこんようになった」
それから政子は10歳でもらわれて、随分、つらい思いをします。結婚して4人の子どもを持ちますが、早くに未亡人になり、針仕事で寝る間もなく働くのです。
生活保護も受けず水商売にも走らず、必死に4人の子を育てた」
こんな、裕三も知らない苦労話を巴に話す政子。巴もそれを素直に聞いて、感じ入ります。そして、
「なんか、離れられなくて。ごめん、もう一回やってみる」
帰宅した裕三は、政子がいることに驚きます。そして、
「おまえがいいなら、俺はいい…」
安堵したのでしょう。「夕食作るぞ〜!」張り切る裕三です。
中野先生(加藤登紀子)が主宰する、お寺の境内で行われるデイケアを訪れる政子と巴。
この加藤登紀子がなかなかいいです。説得力があり、言葉のひと言ひと言に重みがあります。
中野先生が巴に問います。
「政子さんを、痴呆になってから褒めたことある?」
怒ってばかりの巴でした。
「人は、誰かに認められてると思わなければ生きていけない」

中野先生の導きで政子は絵を描くようになり、70年間眠っていた能力を発揮します。
東美展に入選の知らせを受けた巴、こぼれる笑顔で自転車を漕ぎ、政子に知らせます。
巴が娘に言います。
「相手に変わってもらいたかったら、自分が変わる」
巴が変わったことで、政子が変わり夫が変わり、子ども達も変わりました。
ラスト近く、家族で梅園を歩いています。
老いた梅の木は、幹ががらんどうでも見事な花を咲かせています。
「折り梅」の通り、皮から養分を摂るのでしょう。
「おばあちゃんと同じじゃん」
息子が気の利いたことを言います。それを、巴と裕三が仲良く手を繋ぎながら眺めています。
ずっと気になっていたことを、最後に書きます。
この、巴の夫、裕三役のトミーズ雅
原田美枝子のさりげない名演に比べて、

台詞、棒読みやんけ。
イントネーションもなんか、変。
調べてみたら、トミーズ雅って、トミーズ健とコンビ組んでる漫才師なんですね。
この映画の前にも「極道の妻たち」などのやくざ映画に出演してますが…。
どういう経緯で、この映画に出ることになったのかは知りませんが、
この「折り梅」の中では、はっきり言って、浮いてます。
一見の価値あり。
だと思います。
そして、ラスト…。
「おはよう。もう、帰らなければ…」
巴に言う政子、完全にボケています。
巴が誰だか認識できていません。
「どこへ帰るの?お名前は?」
政子は一人暮らししていた団地の住所と名前を言います。
さて、巴はどのように対処したでしょうか…?
舌を巻く、見事なラストでした。