「ぼんち」(1)

今回は、桂千穂著「カルトムービー 本当に面白い日本映画」に収録されてないのですが、
十年くらい前、新宿で観て、再びDVDで見て、
やっぱり面白い。
唸りました。
山崎豊子のベストセラー小説が原作。1960年公開です。
大阪では、良家の坊ちゃんのことを、ぼんぼんといいますが、器の大きいぼんぼん。根性がすわり、たとい放蕩を重ねても、ピシリと帳ジリの合った遊び方をするぼんぼんを、『ぼんち』と呼ぶそうです。
私も大阪生まれですが、全然知らない世界のことが描かれて、面白い以上に勉強になりました。

昭和初期、喜久治(市川雷蔵)は4代続いた船場の足袋問屋、河内屋の一人息子、5代目です。
船場と言えば、大阪町人文化の中心となったところで、かの谷崎潤一郎細雪」の舞台でもあります。
船場言葉は江戸時代から戦前期にかけて規範的・標準的な大阪弁とみなされていたそうです。
「大阪船場」――ある種、ブランドなのでしょう。
大阪船場の格式としきたりの中で喜久治は育ちました。
さて、河内屋は代々、跡取り息子が生まれず、娘が婿を取ってきたんですね。
喜久ぼん(と呼ばれている)の母親、勢以(山田五十鈴)も一人娘で、母親きの(毛利菊枝)と一卵性親子のよう。
呼び出された喜久ぼん、このところ、遊びがすぎるということで、
「かっこ悪い女子(おなご)遊びするか嫁さんもらうか」
祖母きのに迫られます。喜久ぼんはまだ22です。
「あんたらが、まだるうに育てるよって、喜久ぼんは、おとなしいのかふてぶてしいのかわからんようになった。わたしは一人娘のあんたを、そんなふうには育てんかった」
きのが勢以に説教して、勢以がさめざめと謝るのを見て、喜久ぼんが言います。
「ほんまの親子で世間並の嫁姑の芝居すんのは、いつ見ても面白いもんでんな」
勢以ときのの掛け合いは万事がこの調子。(嫁姑のよう)
きのも跡取り娘で婿をもらったのでしょう。勢以の父親、喜久ぼんの祖父にあたるきのの夫は影さえ現れません。故人なのでしょうが、その存在さえ抹殺されています。
きのが采配をふるい、逆らう者はありません。
喜久ぼんの嫁についても、
「妙な偽物(にせもん)ならんうちに、女雛(めびな)さんと添うのんがええのんや」
「わてらに任せといたらええ」
そして、迎えた嫁は砂糖問屋の娘、弘子(中村玉緒)。
「あんな一代限りの成金にうちが負けられまっか?普段は手堅うに暮らしても、いざという時は派手にふるもうて、店の奥行きを見せるのが商(あきな)いの信用というもんだす」
きのが啖呵切れば、勢以は「その通り」。
見合いするのに衣装で張り合おうとしてるんですね。
「まるで、お母はんらの見合いみたいだんな」
と喜久ぼん。
そして、この恐ろしい家に弘子が嫁いできます。演じる中村玉緒が、たまらなく初々しくて可愛い。一見の価値あり、です。
さっそく、煮物の芋の剥き方(「丸っぽ」か「賽の目」か)で嫁いびり食らいますが、この辺は常道ですね。
極めつけは、
勢以ときの、二人が木の枝を汲み取りトイレに突っ込んで、何かさらっています。
(弘子の妊娠が気になり)月のモノの残骸(今ならナプキン?)を調べてるんですね。
その現場を見てしまった弘子…!
妊娠するものの、勢以達には黙って実家で産みます。
無事に男児を産んだと連絡受ける喜久ぼんですが…。
「腎臓が悪い」と実家に帰っていたのが、子どもを産んでいたとは…。
出産には出産の「しきたり」があるのですね。
「万事、うちのしきたりにはむかう女や」
ということで、子どもは引き取った上で弘子を離縁します。
まぁ、ここまで来れば仕方ないのでしょうね。
喜久ぼんにとっても、覚悟かあきらめ…が出来たのでしょう。
嫁もろうても、嫁が可哀想や。
喜久ぼんは3人の妾(めかけ)をもらうことになります。
若尾文子草笛光子京マチ子…という豪華な顔ぶれ。
(間に越路吹雪も登場します)
それぞれに見所たっぷり…で、お腹いっぱいになります。

              つづく