「折り梅」(1)


2002年の映画です。
十年くらい前にDVDで見たのですが、特に印象に残っていませんでした。
今、認知症について調べていて、参考資料として見直しました。
今では認知症という名称、定着しましたが、「痴呆症」と呼ばれていた頃の映画です。
介護保険導入が2000年、以後、急速に介護は社会問題化しています。
結論から言うと、十年ぶりにこの映画を見た私は、感情移入してしまい、エンディングには目からウロコ…。
す、すごい…。
初めて見た時から、自分も親も10歳年をとって…、介護問題が他人事でなくなったのですね。
吉行和子演じる義母を介護する嫁、原田美枝子演じる菅野もと子著のノンフィクション小説の原作と知り、アマゾンで取り寄せ、今、読んでいます。
市営住宅の台所、政子(吉行和子)がちらし寿司を作り、お重に詰めています。それを外で待ってる車椅子の年輩女性、トキ子に渡します。
「これ、向こう行ったら、みんなで食べて」
「あんたのお弁当、美味しいもんね。これでいきなり、人気者だわ」
トキ子は今まで一緒の団地に住んでいて、長年親しく付き合っていたのでしょう。車椅子のお世話になるようになり、これから施設に引っ越すようなんですね。
「最後まで、お世話になるばっかで」
「元気でね。必ず会いに行くからね」
同じような境遇で、人生の苦楽を分かち合ってきたのでしょう。つらい別れです。
トキ子が、
「あんたもはよ、裕ちゃんのとこ、『来い』と言うてくれてるうちに行きなさいよ」
最後のアドバイスです。
「身体が言うこときかんようになって、ただの厄介者にならんうちに」
「行かないわよ。あれは三男だもん。そんなわけにはいかないの」
気が強く、見栄っ張りな性格が出ています。
やがて息子らしいのが来て、トキ子の車椅子を押して車に乗せます。
見送る政子、助手席の窓からこちらを見て手を振るトキ子…。
小さく手を振りながら、くずおれてしまいそうな政子です。
言いようのない寂しさでしょう。
トキ子役の女優さんは名前わからないのですが、すっごくうまくて、吉行和子とのさりげない会話に、老いの寂しさ、哀しさ…見事に滲み出て、名シーンだと思います。
そんなわけで、
「お義母さんがね、一緒に住むんならあんたがいいんですって。そんなこと、自分から言う人じゃなかったのに…やっぱり、寂しいのよね」
リビングで巴(ともえ)が夫の裕三に話すシーンへと繋がります。
「揉めるかな、うちに来てもらったら」
おいおい…。
普通なら「あんた三男なのに、どうして姑と同居せにゃならねぇんだよ!?」と、中指立ててもおかしくないのが、巴は人がいいのか、鷹揚なのか…。すんなり同居生活が始まります。
名古屋郊外に住むサラリーマン所帯、夫、裕三とパート主婦、巴、中学生の娘と小学生の息子の家庭に、和歌山の市営住宅に一人暮らししていた裕三の母、政子が同居することになります。政子は一人暮らしが心細くなり、巴は政子が家に居てくれれば、家事を頼めてパートに励めると思ったようなのですね。
当時67歳の吉行和子の演技、息を呑むうまさ。原田美枝子は妻として母として、地に足をつけて生きる主婦が等身大で演じられます。温かいご飯、洗い立ての木綿のタオル、清潔な布団…そんなイメージでしょうか?これだけ芸歴が長いのに、何物にも染まってなくて、素敵だなと思います。
同居してみると、政子は思いもかけない行動で巴を戸惑わせます。同僚のパート主婦から、「環境が変わると痴呆になりやすい」などとアドバイスされて、巴は政子に診察を受けさせたところ…。
アルツハイマー
と診断を受けます。