「象を喰った連中」(2)

ジュワーッ、とフライパンで分厚いステーキが焼けてるんですね。
白黒映像でも実に美味しそうです。
象の肉っていうと、脂気のないパサパサしたものを想像していましたが、確かに食欲そそります。
それを白衣の研究者が料理している。
この映画、ストーリー展開もさることながら、ディテールが洒落ていて、見過ごせない。
例えば、象の肉を焼きながら、
「腹壊さないかな?」
「科学は観念にとらわれては恥辱」
コッホを見よ、赤痢を飲んだ。ジェンナーは息子に種痘を打った…。なんてやり取りしてる。
肉が焼き上がり、四人でテーブル囲むわけですね。
「こいつは食いでがあるなぁ」
「ガラが大きいだけに大味だな」
戦後の食糧難です。焼き立てのステーキなんて夢のようでしょう。
そこへ、飼育係の山下(笠智衆)が用で来ます。
ステーキに食指をそそられながら、愛妻と飯を食うことになってると帰ろうとするのですが、
やはり、肉の誘惑には勝てず…。
象テキを堪能しているところへ、
それだけ喜ばれたら「シロ―ちゃん」も浮かばれるよ。
などと言われ…。
哀しや…。そこへまた、泣いて帰ると、妻から、
「シャムで死んだ象食べた人達が二日後に死んだじゃない」
慌てて研究所へ行きます。
「象と一緒に病原菌まで喰らった」
というのですね。
調べてみると、べん毛のあるバビソ菌とやらを食して30時間以内に死亡した例がある。
慌てて血清を調達しようと電話かけまくるも…なし。
30時間のタイムリミット、極限状態のサスペンス…。
にはならず、
独身で身内のない(象を食べようと)言いだした和田。
まだ若く、和田の誘いにのった馬場。
新婚ホヤホヤの野村。
三人子どものいる中年の渡辺。
中年で子どももないけど、仲良し夫婦の山下。
それぞれの死を前にしたドラマが、見応えたっぷりに描かれます。
例えば、独身の和田は下宿屋の娘に生命保険の証書と印鑑を渡し、「死に水を取ってほしい」と願い出る。
馬場は実家に帰り、「自分の研究材料に当たって死ぬなんて、親不孝どころか、パパやママの顔に泥を塗ってしまいました」と親不孝を詫びます。洋風な家でもないのに、なぜか「パパママ」母親手作りの巨大なおはぎが更に山盛り…。
中年の渡辺は、妻としんみり葡萄酒を飲みます。「一度酔ってみたかったんだ」――「今日は来年の来ない大晦日のようなもの」
馬場の親は、息子が勉強しずぎで神経がおかしくなったのだと思います。そこへ、電報が届き…。
血清が見つかった。
上野駅に集まる一同。ところが、
途中事故で多少延着の見込み。
続いて、
明朝まで復旧の見込みつかず。
のアナウンス…。
ならば、こちらから向かおう…としたところへ、
1時間で回復します。
安堵したのも束の間、届いた血清は5本のうち1本が破損していました。