出生前診断(3)

直子さんは27歳、生まれながらの二分脊椎症。膝から下がほぼ麻痺で装具をつけないと歩けません。
会社員の夫、拓也さんと2人暮らしです。子どもはダメだろうとあきらめていて、子ども好きな拓也さんに、「子どものいない人生を歩ませる」ことに申し訳なさを感じていました。そんな直子さんが、昨年6月に妊娠…。
出生前検診を直子さんに勧めたのは直子さんの母親でした。理由は、
「(直子さんを)育ててきた苦労があったから」
障がいのある子どもを育てる大変さを身をもって知っているのですね。それは綺麗事ではない。まして、直子さんには障がいがある。
二分脊椎症に遺伝的な証明はありません。妊婦検診でも異常なし。直子さん夫婦は大丈夫だと思って検査の結果を聞きに行きます。と…。
背中、ここに二分脊椎症がある。
状況としては、脊椎症の子の中ではかなりいい方。
夫(ぷぅ)医師はつらい診断を下します。(注:夫医師は女医です)
直子さんは青天の霹靂。「もう確実?」確認してから、声をあげて泣きます。それを拓也さんが抱きしめます。(診察室にテレビカメラ設置)
こんなことって、あるの???
私自身が自問してしまいました。クリスチャンながら、
神も仏もないやんけ!
(ヽ>ω<)ヒイィィィ!!●~*ヒイィィィ!!(>ω<ノ)ノ
失礼致しました。
直子さんは言います。
みんなに申し訳ない。
拓也さんに健康な子を産んであげられない。
拓也さんの両親に、健康な孫を見せてあげられない。
直子さんの母親に、(自分だけでなく)孫まで病気をもってる。
つくづく思うんですけど、
障がいのもった子を妊娠するのは、妊婦の責任ではない。
前回の妊婦、明起(はるき)さんもそうですが、子ども大好きで妊娠を心から喜んだ。胎児に悪いことなんてするはずがありません。なのに、
申し訳ない。
私だったら、自分が被害者になって、
なんでやねん!
と中指おっ立てそうです。だって、精神的にも肉体的にも、一番苦しむのは妊婦のはず。それでも、直子さんの
申し訳ない。
ごめんなさい。
は続きます。
直子さんは妊娠6ヶ月に入っており、産むかどうかを決断するのに猶予がありません。3日後、直子さん夫婦と直子さんの母親、拓也さんの両親の5人が夫(ぷぅ)医師の元に集まり、話し合います。(それまでは家族間で何も触れていない)
これからは、まさにドラマの中のドラマ。フィクションでは描けないノンフィクションのドラマが展開します。
最初に口火を切ったのは、拓也さんの両親。
あきらめた方がいいのではないか。
我々も年を取っていく。(手伝いするにも限界がある)
と直子さんの義父。全くの正論です。そして、次の義母の言葉は強烈でした。
生まれたら一生やもんな。
「産む」のは美談かもしれない。でも、そこには責任がある。そして、生まれてくる子にとっては、一生の問題。
重いです。重すぎる。
もう、誰も何も言えません。…と、そこへ言い放った夫医師のひと言が凄い!(注:夫医師は女医です)←しつこい!
「このお腹の赤ちゃん、決してバカにしたもんやないと思うねん」
素晴らしい。
この台詞、頭では絶対につくれない台詞だと、何度聞いても思います。(録画しているので)
「この赤ちゃんが、お母さんを支えていけるんちゃうか」
夫医師は何も言わない直子夫婦の「産みたい」という本心を見抜いて、勇気づけるためにこう言ったのではないのか、と思いました。
この医師の言葉に反応したのが、直子さんの母親。
心に響いた。
その通り…。
二分脊椎症の直子さんを育てながら、苦労もあったけれど、逆に励まされたこともあったということでしょうか。
でも、だからと言って、「産んだらええ」という勇気はない。
「苦労してるもん」
「本人、見てるのもつらかった」
直子さんが子どもを産むのを、本当に楽しみにしていたそうです。
障がい者が障がいの子を育てるなんて、大変…」
確かに。
話し合いが始まって3時間。直子さんは溜息ばかり。
「お腹の子と死にたい」
「死にたいと思ってる母親に宿ったことが申し訳ない」
と思ったそうです。(後述談)
拓也さんは黙って直子さんの手を握っています。
遠慮し合って何も言わない直子さん、拓也さん。この夫婦に夫医師が言います。
「2人が決めることや」
「ちゃんと話してみ」
親達は席をはずします。
拓也さんはおずおずと言います。
「僕は産んでほしいけど、産むのはお母さんやから」
それに対して、
「病気がわかるまでは、何が何でも産みたいと思ってた」
「主人の元気な子が欲しい」
「でも同じ病気ってわかって…生活してきて、この病気で27年間…」
残酷です。同じ苦しみを、自分の子に味わわせるのか…。
一方で、
お腹の子をあきらめるとしたら、それは、直子さん自身の人生を否定することになるのでは…?
と思いました。少なくとも、拓也さんという最愛の夫と結ばれたのですから。
これ以上の究極の選択があるだろうか、と思います。
結局、結論は出ません。(全員が良い人なんですね)
「2人が産むと決めたんなら、受け入れるよ」
直子さんの母親が言いますが…。
翌日、中絶の可能性も含め、予約を入れていた別の病院に5人は足を運びます。そこで、医師から中絶処置の説明を受けた直子さんは、倒れ込んでしまいます。それを見た拓也さんの母親。心から「いじらしい」と思ったそうです。
「私しか言えないと思った」言葉を直子さんに言います。
「産むか?」
「ありがとう」
と直子さん。
そうして2714グラムで誕生した女の子、結衣(ゆい)ちゃん。
直子さんは、生まれ立ての結衣ちゃんに話しかけます。
「ありがとう」
そして、
「ごめんね」