警察を呼ぶ(2)

22時になっても娘Bが帰宅せず、110番ダイアルした。
ワンコールも置かず、
「事件ですか!?」
強盗にあったわけでも死体が転がってるわけでもない。
こんなことで電話してはまずかったのだろうか?と一瞬思う。
「娘が帰宅しないんです」
言うしかないのだが、言ってから、16歳の娘が帰宅しない、というのは、
十分事件性がある
手短に事情を聞かれ住所を聞かれ、これからこちらに来るという。
来るより捜してくれよ
と思うけれど、断るわけにもいかない。(電話の訴えだけでは捜しようもないということには、この精神状態ではわからない)
2人組警官が来たのは、110番の受話器を取るほどに素早くはなかった。
事件性はあるにせよ、帰って来ない子どもをいちいち相手にしてたら、仕事にならないだろう。
「そのうち帰って来るでしょ」と言いたいところかもしれない。
案の定、30代後半と新米警官2人組の上官の方が、「まだ、お帰りではないですか?」
と確認した。
そしてまず、求められたのが、
写真
である。とっさに、
ニュース映像に映る被害者の写真
を連想した。愚かにも、
可愛い写真!
などと思う。
可愛い写真どころか、プリントした写真がない。プリントしたのは、人にあげてしまった。
デジカメの中のデータしかない。
一瞬、帰宅している娘Bの姉、娘Aは一卵性の双子なので、「これと同じです」と言って、差し出そうかと思ったが…それは、ちょっとダメかも…と思ってやめる。
仕方なく、
「パスポートでもいいですか?」
と聞く。いいと言う。パスポート写真は肉饅頭(にくまんじゅう)みたいで、こんなのがニュースに映っても、
全然、同情を誘わない
などと…馬鹿げたことを思った。ほとほと…呆れる。
ニュースに映る写真が、卒業アルバムの個人写真では?と思われるようなのがあり、
それは、こういう事情なのだろう…と察することができた。渡したパスポートは、しかし、4年前の代物だったので、もう少し、最近のものを
とNGを出される。
深刻な現実が近づきつつある中、妙に弛緩した間(ま)を味わう。
いつ死んでもいい、と思っている私だけれど、遺影になる写真がない!用意せねば…などと思う。
そうして、この4月、娘達が高校生になった入学祝の写真を写真館で撮った。
それが写真立てに立てかけてあったので、それを差し出すと、
OK
が出た。この頃になってようやく、ニュースになる前に、写真がないことには、名前と年齢だけでは捜しようもないことに気づく。
それから、新米警官から事情聴取というのか(私の言うことを警官が書類に書く)をしていたら、
足音が近づいて来て、
娘Bが現れた。