「死の舞踏」(2)

パンフレットによると、作者ストリンドベリは没落貴族の父と女中との間に生まれた。
3度の結婚と離婚を繰り返したが、「死の舞踏」の妻、アリスは元女優。ストリントベリの最初と最後の妻も女優。2度目の相手は女流作家。

「死の舞踏」は、銀婚式(結婚25周年)を迎える熟年夫婦の壮絶なバトルが描かれる。
普通、一般に、「結婚」から発想されるイメージは、安定、幸せ、平凡…。
「結婚式」は、言わば幸せの絶頂。新しい「家庭」を築くための祝福されたスタートなのであるが…。
「死の舞踏」に描かれる「結婚」は、
牢獄の中で日夜営まれる夫婦二人の出口のない生き地獄。のような…。
そこにはストリントベリの経験に裏付けられた「結婚観」があるのだろう。
3度の結婚は…安定や幸せからかけ離れたものだったに違いない。(安定や幸せなど求めてなかったのだろうが)
それを芸術というかたちに残せたところが才能なのだろう。
しかし…。
実際に結婚してみて、歳月を送ってみると…「幸せな結婚」というものが、いかに、
絵に描いた餅
なのかとわかってくる。一方で、
結婚せず、独り身で、長い人生を送ることの寂しさ、虚しさ…もわかるようになる。『幸せな結婚』は絵に描いた餅でも、自分の娘には、やはり、結婚してほしい、と思う。
なかなか、人生を生きるのは難しい…ということかもしれない。それはそれとして…。

人里離れた孤島、(嘗ては牢獄だった要塞のような建物で)やがて銀婚式(結婚25周年)を迎える夫婦…
(4人の子どものうち2人は死に、残る2人は町に住む)ひねくれた性格が災いして出世も出来なかった夫と、結婚のために女優をやめた妻…
お互いに恨み辛みの25年。人付き合いも出来ず、誰からも相手にされない夫婦…そこへ、妻、アリスの従弟、クルトが仕事で赴任してくる。クルトはアリスと夫、エドガーの仲をとりもった張本人。15年ぶりの再会に心躍らせるアリス…。
クルトは離婚して、子どもの親権を妻に取られたという傷を負っている。
エドガー(大尉)とクルトの会話は例えば、大尉「金、金、金!毎日毎日、財布の口を開けっ放しでいなきゃならん。しまいには、自分がまるで財布になったみたいな気分がしてくる。わかるかね、こんな気持ち」
クルト「わかります。ただ僕の場合は、まるで小切手帳になったみたいな気分ですが」大尉「(笑って)君もこの味は知っとるわけだ。女ってものは!(笑う)確かに君は、まことに女らしい女をつかんだもんな」
クルト「(穏やかに)やめましょうよ、昔の話は」大尉「確かに、あの女、本物の宝石だったな。だが、それを言うなら、おれの手に入れた女だって、ちゃんとした女だったぞ、何のかのと言っても。うむ、まともな女だ」
おおっ…!
自分が惚れ込んで選んだ相手なら…そうでなくては。
クルト「(悪気なく微笑して)何のかのと言ってもね」大尉「笑うんじゃない。そうとも、あれは、忠実な妻だった。立派な母親だったし、文句のつけようはない。しかしだな――(右手のドアに目をやり)あいつには、悪魔の気性が巣くっておるんだ。時々、君を呪いたくなることがある。君があいつを、あんなふうに、おれに押しつけたことをな」
「押しつけた」というのは、どうやらエドガーの(間違った)思い込みのようで、エドガーがアリスにひと目惚れして、クルトに仲介を頼んだらしい。アリスによればエドガーというのは、「頭に浮かんだことを口に出す。すると、それがまるで、事実のことのように思えてくる」人物らしい。
「妻」として、「母親」として、アリスを認めるところはある。これがなければ、さっさと離婚していただろう。これ(信頼)があるから、逆に好き放題、文句を言えるのかもしれない、とも思わせる。
しかし…
クルトのこんな怖ろしい台詞がある。
「…この部屋、死臭が立ち込めてる。さっき入ってきた途端、胸が悪くなった。床下に死体でも埋まってるのか。それとも、これは、あなた方二人の憎しみが発する悪臭なのか。息がつまる」
また、
アリス「…一生、この搭の中に閉じ込められて、囚人みたいに、昔っから、いつだって憎んできた男に、監視されて、今じゃあんまり憎いから、あの男が死んだ時には、うれしさのあまり、ケラケラ笑い出したいぐらいだって、そんな話でもすればいいの?」
クルト「どうして別れなかったんです、じゃあ」アリス「いい質問ね。婚約時代からもう、二度も別れたわ。結婚してからは、二人とも、別れようとしなかった日なんて、一日だってなかった。でも、まるで癒着したみたいにくっついちゃってて、離れられない。一度、別居したことはあったわ、同じ一つの家の中で、5年間。今じゃ、どっちかが死ぬしか、別れる道はないの。二人とも、わかってるのよ。だから、死ぬのを、心待ちにしてるのよ。死んで自由になれるのを」
ここまでくると、憎しみ合ってるのか愛し合ってるのかわからない。愛憎…とはよく言ったものだと思う。
そして、エドガーの目の前に死が迫ってくる。
エドガーは、アリスは、クルトは…。