「三人の名付親」(3GODFATHERS)(2)

そんなわけで、生まれたての赤ん坊を引き受けることになった三人。
ここは砂漠で水もなく、保安官に追われる身。
こんなお荷物、しょい込む場合違うで。
と思うのですが、

育児書と首っぴきで、あーだこーだ言い合うわけです。
『スリーメン&ベイビー』のノリですね。
(スペイン人の設定なのか)スペイン語で赤ん坊に話しかけるピートに、
スペイン語はやめろ。覚えたらどうする」
とボブ。
「母親と同じ正しい英語で育てる」
などと言うわけです。

生まれた赤ん坊には、まずオリーブオイルを塗る、と育児書にあり、オリーブオイルがない場合は「ラードかグリース」とあり、ピートが馬車の車軸に塗るグリースを取り出します。
グリース塗りたくられた赤ん坊を囲んで、大笑いの三人。
こんな人生最悪の逆境にありながら、この笑い。
赤ん坊が砂漠の中のオアシスになったような…。
銀行強盗で肩を負傷したキッド、痛む肩で、
「名付け子を抱きたい」
と言います。赤ん坊を抱いて故郷の子守歌を歌います。
守るべきものがあると、人は強くなるのですね。
死を前にしているからこそ、赤ん坊という生命の塊が光り輝くことでしょう。
三人の名をそれぞれ取った、ロバート・ウィリアム・ピート。

三人の名付親は、赤ん坊を呼ぶ時、自分の名で呼び、後の2人が自分の名を付け加えます。
母親が残した練乳をサボテンから搾り取った水で溶き、赤ん坊に与えていたものの、サボテンもなくなり、赤ん坊用のミルクも残りわずか。
ピートから水を勧められたキッドは、
「俺は善人ではないが、この子の水は盗めん」
水筒を払いのけます。
ボスとして苦境に立つボブは、
「聖書なら何か教えてくれるはず」
というピートの言葉に怒り、聖書を叩きます。
「聖書など忘れろ」
とボブ。
「母親と約束しなければ何とでもできたのに」
現実に戻るわけです。
激しく言い争うボブとピートに赤ん坊が泣き出します。
それをピートがガラガラであやします。
黙って聖書を開いていたキッドが、
これからどこへ行くか、聖書に書いてある、と言うのですね。
自分達は偶然、ここへ来たのではない。
母親を助け、赤ん坊の命を救った。
聖書に「導かれてる」と。
キッドは言います。
「投げた聖書が開いたところを読んでみた」
これこれ!
祈って(聖書を)開いたところが、神様からのメッセージ(ラブレター)。
というのが、我々(クリスチャン)の間でいつも言われてることです。
「行き先が書いてあるから読むぞ」
キッドは聖書を読みます。
モーセの戒律によるお清めが終わると、彼らは赤子をエルサレムへ連れて行き主に捧げた」
エスの誕生に導かれた三博士に自分をなぞらえ、エルサレムに向かおうとします。
星が見えるだろう、あの星の方向を目指せばいい…。
目指す当てのない三人は、星を目指して旅立ちます。
ボブとピートは荷物を持ち、キッドは赤ん坊を抱いて歩きます。
「ほら水だ」
湖かと思ったそれは「塩湖」で、塩の大地を渡ります。

力尽きたキッド。
「俺が水を欲しがっても、飲ませてくれるな。約束だ」
「約束する」
もう水筒の水はなくなっています。(赤ん坊のミルクはある)
詩篇137を読んでくれ。頼む」
ピートが詩篇137を読み、キッドは祈り、悔い改め、死んでいきます。
残されたボブとピートは進むしかなく、やがて塩湖を通り越し、山へ向かうというところで、よろけたピートが足を骨折。
「明日はクリスマスだな。メリークリスマス」
ボブを一人で行かせた後、スペイン語で祈りを捧げ、ピストルで自殺します。
背後で銃声を聞いたボブ、一瞬、立ち止まるも、赤ん坊を抱いたまま突き進むしかありません。
山腹の洞窟のようなところで、吹き荒れる風に飛ばされそうなボブ。
余計なものを捨て去り、必要な物だけポケットに入れます。聖書も投げ捨てますが、気になって開いているページを読むと、

エルサレムに近づくと、つながれたロバと共に子ロバが来る。綱を解き、私のもとへ引いて来なさい」
バカを言え、ここではロバ泥棒は絞首刑だ!と、聖書を再び投げ捨てます。
手荷物なし、赤ん坊を抱いてるだけのボブ。
キッドが歌っていた子守唄を歌うと、キッドの歌声が聞こえてきます。
幻聴のようなキッドの歌声に救われるボブですが…。
「もうダメだ。旅は終わりだよ、ロバート」
赤ん坊を抱いたまま倒れるボブ。

すると、
「ロバート・ウィリアム・ピート」
と付け加えるいつもの声。
「大丈夫、聖書を信じろ」「約束を忘れたのか」「立てよ、この腰抜け」
ピートのスペイン語まで聞こえてきて、
「赤ん坊の前でスペイン語はよせ、って言ったのに」
よろよろと立ち上がり、歩き出します。
後ろからキッドとピートの幻影がボブを励ましながらついてきます。
ボブの足取りも軽くなったかと思うと、不意に二人が消え、二人を呼ぶボブの声が届くところまで、保安官達が近づいています。
もはや、絶対絶命。
そこへ…どこからともなくロバと子ロバが聖書の通りにやって来て、ボブはロバに赤ん坊を乗せ自分も寄りかかり、山を下り、酒場に着くのでした。
「メリークリスマス!飲み物をくれ。この子にはミルク、俺には冷えたビールを頼む」