「第三の影武者」(1)

桂千穂「エンタムービー 本当に面白い時代劇」の表紙にもなっている映画です。
市川雷蔵がホンモノと偽者を一人二役で演じます。

時は戦国時代、山に囲まれた飛騨では、武田、上杉、織田の侵入がない代わり、小領主の小競り合いが絶えません。
そんな小競り合いを見るにつけ、侍になりたいと胸を熱くする百姓の倅・二宮杏之助(市川雷蔵)。
例え、戦に敗れ首をはねられても、一生、地べたを這い回るよりはマシ、と思うのですね。
「そしてある日、その若者の運命は馬に乗ってやってきた」
しゃれたナレーションです。
騎乗の武士、篠村左平太(金子信雄)が深い霧を抜けて杏之助を訪ねてやって来ます。
「あれ、お侍だぞ。こっちへやって来る」「お父っつあん、お侍が来るぞ」「お侍が???」
馬の近づく気配だけで腰を抜かさんばかりの騒ぎ。
騎乗の侍に、土下座する父と兄と杏之助。
侍の前では百姓は虫けら同然ということを、巧みに描写していると思います。
騎乗の金子信雄、憎いばかりの威厳があります。そんな金子が杏之介に向かい、

「その方、武士になりたくはないか」
杏之介をスカウトするのです。
しかも、百石で召し抱えるという「ありえない」条件。
舞い上がった杏之介は疑いもせず、篠村についていきます。
篠村が杏之介をスカウトした理由というのは、杏之介は城主、池本安高(市川雷蔵)に瓜二つ。
安高には既に二人の影武者がおり、杏之介は三番目の影武者に抜擢されたわけです。
影武者1号、2号、3号(市川雷蔵…面白いですね。
この3人がそっくりかと言うと、別の俳優なので「そっくり」とはいかず、
「どうじゃ、お互いによく似ておろうが」
顔を見合されるのですが、これも絵的に面白い。
1号と2号…確かにソース顔でなく日本的な顔だけど、似てるかなぁ?
で、1号2号も杏之介が城主、安高に似ていることにびっくり。
家臣までもあざむく、安高の本命影武者として、期待されるわけです。
安高の影武者となるべく、特訓が始まります。
安高と同じように軽くびっこを引いて歩き、短気な安高は寝る時以外、鞭を手放さず怒鳴りちらす。
家中の名簿をすべて暗記。
5カ月の特訓を経て、遂に城主、池本安高と対面します。
顔を上げた杏之介を見る安高…あまりのそっくり加減に目を剥きます。
同じ市川雷蔵なんだから当然だけど、これもおかしい。
そして、影武者最終試験は
「これは褒美もかねてじゃ」

と、安高の愛妾、小萩(万里昌代)との床入り。
粗っぽい安高に比べ、いつもと違う…と思いながら燃え上がる小萩。
万里昌代が美しく、純粋で健気です。
これがラストの伏線になります。
そして合戦。
ここで安高は流れ矢が左目に刺さってしまいます。篠村は、安高を物陰に運び手当をし、
「3番、殿の身代わりに立て」
杏之介は、兜を脱がされ左目に眼帯を巻かれ、安高の兜をかぶされます。
「者どもー、余は健在であるぞー」
杏之介が軍を叱咤激励し、奮い立った全軍は勝利します。
ところがその夜…
「とうとう本物の陰になってしまった」
と杏之介。
勝利の祝宴に顔を出せるはずもなく、影武者三人は小屋でしんみりと酒を飲んでいます。
「そうよ。今日からおまえは二宮でもない、池本安高でもない。そうよ影よ。そこに映ってる影と同じだ」
2号に言われます。その代り、金はたんまりくれる…と。
1号が一人、思いつめた顔でいます。
「俺は怖いんだ」

泣きそうな顔で、杏之介のはずした眼帯を顎で指します。
2号、3号…も1号が何に脅えてているのか察して…。
そこへやって来た篠村。勝ち戦の労をねぎらい、それぞれに酌をします。
「ところで、殿はこの度の合戦で左の目をつぶされた。影武者であるおまえ達も当然、これに従わねばならん」
酌をした酒には痺れ薬が入っており、それを飲めば痛みも大したことはないだろう…。
「これも出世の糸口、ありがたいことではないか。目ぐらいなんじゃ、ひとつ潰してももうひとつ、残っておるわ
高笑いします。
金子信雄、はまってます。