「処女が見た」(2)

京都洛北の尼寺、西入庵の庵主、智英尼(若尾文子)は本寺である永光寺の住職の紹介で和恵(安田=大楠道代)という17歳の少女を預かることになる。和恵は伊勢湾台風で両親を喪い、叔父夫婦に引き取られるが色々と問題を起こし高校を停学処分にもなっていた。西入庵に預けられる和恵は、いかにも生意気そうである。

一方、智英尼は30歳、年上の妙仙尼とお手伝いの3人で暮らしていた。
智英尼、妙仙尼と起居をともにする和恵の修行の日々が始まる。
6時に起きて勤行、粗末な朝食、掃除…。
和恵が床を拭き掃除するのに、
「もっと腰を上げて、手に力を入れて!」「腰が下がってる、腰を上げて!」
尼姿の若尾文子が「腰」を連呼して、こちらに向けられた大楠道代の腰が上がったり下がったり…エロなシーンではないのに何だかエロな気がする。
不良娘の和恵はこんな生活に耐えられず、度々尼寺を抜け出しては智英尼を心配させる。
反抗的な和恵がある日、娘達と書道教室で稽古中、智英尼にベタベタする娘に腹を立てて、飛び出すという騒動が起こる。17歳、反抗しながらも無意識のうちに智英尼に憧れる和恵の心理が描かれ巧みである。
そうしてバーで3人組の男に目をつけられた和恵は西入庵に朝帰りするところを襲われる。そこを早朝散歩していた智英尼が通りかかり、助かるのだが…。
ここで疑問。
通りかかった智英尼…警察を呼ぶこともなく、3人組を威嚇して追っ払う。そりゃ17歳の和恵に比べれば年増だが、十分以上に美しい。

3人いるのだから和恵を取り押さえて智英尼を襲うことも可能…てか、早朝で人気はないし、欲情した3人組が、この色香ムンムンの尼さんにどうして跳びかからないのか…?
それとも、仏に仕える凛とした美しさに犯しがたいオーラを感じた…とか?この辺、男性の方にご意見を伺いたい。(カツラー様、よろしく(^.^))
「あたしが散歩をしてなかったら、あんたはどうなってたと思う?」智英尼の部屋で説教される和恵。ここから和恵の生意気さがなくなり、智英尼と正面から向き合う。話の中で和恵がエレキをやる男子高校生との付き合いを責められて、エレキとお経の違いについて真面目に答える。
「お経を読んでると眠とうなるけど、エレキ聴いてるとウキウキと楽しゅうなります」
「そら、あんただけがそうなるのや」「違います、庵主はんかて、きっとウキウキと楽しゅうなります」「ならしません」
「なるかならんかいっぺん、見ておくれやす」
「そんなもの見いしまへん!」
毅然と言い放つも、次のシーンはエレキの祭典会場、観客席で恥じらいがちに座る智英尼。「これがうちのグループどす。二番めが(和恵と親しい)シローさんどす」
会場を埋め尽くす若者。和恵は身体揺すってノリノリ…。尼僧服の智英尼は只でさえ浮いてる上に、瞬きするのも忘れたように陶然となっている。
カルチャーショックというのか、テレビも見ないそうだから…。
このエレキの祭典会場の智英尼は…見どころである。会場を出ると無言で帰り道を急ぐ智英尼。和恵は西入庵に帰ると心配になり、智英尼の部屋に入る。「エレキに連れて行って怒らはったんどすか?」
和恵は智英尼に心を許している。「へぇ、怒りました」
こう答える智英尼の顔が何とも可愛い。そうして正直に打ち明ける。「うちはなぁ、気も転倒してしもて心臓が止まりそうどした。この世とあすこではあまりに違いすぎるのどす…」
そして、
「そやけどな、なんであんた達がエレキに興奮するのか、それもわかりました」
お〜!ここで完全に和恵と智英尼のわだかまりが解ける。
「あんた、今夜からここで寝なさい」
和恵の顔が輝く。
「庵主はんと一緒にどすか?」
「あんたに、私というものをもっとよう知ってもらいたいし、私もあんたというものをよう知りたい。そないしまひょ」
大きく頷く和恵。
何と、うまい展開であろうか?そうして、
「エレキを聴きにいったというのは、うちとあんたの秘密や」
その夜、智英尼が和恵に自分の生い立ちを話す。空襲で両親を喪い孤児になった。大きな織物問屋の娘だったが疎開先の寺の世話になることになった。身の上は和恵と似ている。自分はまだ恵まれていたが、もし、(引き取り先の養父の元で)和恵のような目に遭っていれば同じことをしていただろう…。このあたりまでは、エロイばかりではない。寧ろ、エロティシズム漂う文芸大作のようだ。日活ロマンポルノだったら(差別するわけではないが)ここまでは描けないだろう。
美しいだけではない。智英尼の優しさ、賢さ…に和恵は、
尼になりたい。庵主はんみたいになりたい。と叫ぶ。と、智英尼は、
今は大人になる準備の時、道を踏み外してはいけない。
と高校へ通い、きちんと卒業するように諭す。和恵はもう、メロメロ…である。
庵主はんのこと好きや。いつまでもそばにいたい。
と抱きつく。
見事である。

ちなみに、この映画、1981年に2時間ドラマ化されている。智英尼を松尾嘉代、和恵を伊藤かずえ。これは濃厚な同性愛にスライドさせたようだが、映画ではこれ以上のことはない。そして…ここで本寺の住職が急死して、後釜に座るギラギラ住職の行俊(城健三郎=若山富三郎)登場である。
ここからの展開は…一気にロマンポルノ路線にひた走る。