雨ニモ負ケテ…

星野富弘という名前は、知っていた。
首から下が動かず、口で絵を描く人らしい。
信仰のある人で信者の間では有名だった。
重い障害→信仰
というのが、わかりやすいというか、痛々しい…感じがして、近寄る気にならなかった。
信仰のある者として一応、知っておこう。
みたいな動機で、図書館に行って探したら3冊あったので、借りてめくってみた。
中学教師になりたての頃、クラブ活動の指導中に負傷して、手足の自由を失ったらしい。
9年3カ月の入院。
この辺の苦労話は…(冷たいようだが)苦手である。

手紙の返事を書きたくて、口に筆をくわえて文字の練習を始めたという。
沢山文字が書けるわけもなく、その余白に花瓶にさしてあった花の絵を描いたところ相手が喜び、それが絵を描くようになったきっかけらしい。
なるほど。
花の絵と文章(詩)――「詩画」というらしい。
絵にも詩にも肩を張らない温かさ、滲み出る優しさがある。
「あおむけに寝たままで、次から次へと人の悪口を言った。右目の隅で、桃の花が笑いながら咲いていた」
「桃の花」という題で、桃の絵が紹介できないのが残念だが、この一文に、
参りました。
ノックダウンされた感がある。
重い障害者が「立派」だと、もう、こちらは何も言えない。
「すごいですね」と引き下がるしかないのだ。
「障害」は、苦しい、つらい…に決まっている。
妬(ねた)みや恨みのないはずがない。

そんな私の思いに、星野富弘は見事に答えてくれた。
絶望の向こうに抜けた明るさがある。
ウィットも素晴らしい。
力をもらった。