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白いドアが風に揺れる。
白いカーテンが風に膨らみ、泳ぐ。
閑静な住宅街、庭の白い丸テーブルで女がトランプ占いをしている。何不自由のない優雅な暮らしぶりがうかがえる。
と、唸りをあげる風にテーブルのトランプが一斉に宙を舞う。女はかがみながらトランプを拾い、カメラはロングスカート(MADE IN ITALY風)に包まれた女の尻を追う。
トランプを拾う女が、ふっとドアのガラスに映った自分の顔を見る。その満たされない顔…。
見事なファーストシーンです。
『色情妻 肉の欲望』――裕福でも満たされない人妻、弘子…。弘子の前に「風」が起き、弘子は風に流されるように、これから迷宮の世界に迷い込むのです。これから始まる物語を象徴的に語っています。
「何か」の始まりを予感させる、印象的で洒落た導入…。1976年作。今から30年以上も前の映画とは思えません。
タイトルの後、シーンはエステサロンに繋がります。ドアのガラスに映った自分に「老い」の兆(きざ)し(目尻の小ジワとか)でも見たのでしょう。エステの鏡を見る弘子は満足気です。しかし、新たに入店する若い女達を見ながら、弘子の表情は一転曇ります。若さの華やぎ…もう、どんなに頑張っても若くはないんだ…みたいな。
そこへ、「大丈夫。綺麗になったわよ」と友人の緑が弘子の心情を見透かしたように声をかけます。「お互い、もうすぐ30なんだから」とか言いながら…。確かに、
「25歳はお肌の曲がり角」
とか言われていました。「女はクリスマスケーキで、25過ぎたら誰も貰い手はない」なんて…。
今は「アラフォー」なんて言われて、この辺、時代の格差が出てますね。
さて、「アバター」上映を待つ東宝六本木ヒルズで、このDVDをピーター先生から受け取りました。その時、
「当時はエステなんて今みたいになかったですからね」
と。
「エステが舞台なんですか?」
「いえ、最初の方に出てくるんですよ」
確かに、何気に出てきます。物々しくなく、サラリと出てくるのがお洒落。普通なら美容室とかブティック、レストランあたりでしょう。(DVDパッケージのストーリー紹介には「美容院」と書いてあります。「行きつけの美容院の帰り…」と。聞くところによると、当時、エステティックサロンというものはなく、美容院で『お美顔』などと呼ばれることをやっていたそうです)
何にせよ、時代を先取りしている。四十代の先生はエステなんて縁も所縁もないだろうに、大したものです。
エステを出てから、弘子は露店でタロットカードを売る美しい青年と出会います。青年に勧められ、弘子はタロット占いの館へ…。通りにオウムが居て、そのオウムが「ファック、ファック…」と言い続けます。
この映画はタロットカードが、ファーストシーンで弘子に吹いた「風」のように、弘子を異次元の迷宮へと誘(いざな)ってゆきます。今でこそ、タロットはポピュラーですが、30数年前ではかなりマニアックだったのではないでしょうか。(『多重映画脚本家 桂千穂』にて)ご自分でもおっしゃられていますが、
「これ、早すぎた傑作だと思います」
タロットの啓示に翻弄され、身を持ち崩してゆく人妻…。
これ、日本人離れしてる。洋画みたい。そう、それはまるで…
フランス書院の世界…"+;・ο。.・;+:+.。ο・;+*:゜・☆ヾ"
やはりあなたは、
リチャード・ピータースだったのね?(個人教授(2)参照)
YAH♪☆0(^^0)*^^*(0^^)0☆♪YAH
今ならタロットもアリでしょうが、34年前では、
観客(主に男性)はついて行けたのかな…?
と思いました。タロットなんて、今でも女の世界ですよね?
ただ、タロットカードを売る美青年、「ファック」を言い続けるオウム、やがて現れるタロット占いの白髪の老婆…。
それはまさに…
桂千穂の世界…
悪魔の教団、黒魔術、背徳、エロス…。悪意と刺激に満ち溢れたデビュー作、『血と薔薇は暗闇のうた』の世界です。
今でこそ、こういう世界は支持されてますが、40年前では異端だったことでしょう。
やはり、桂千穂の登場自体が早すぎたのでしょうね。
時代がようやく、桂千穂に追いついた!
タロット占いの老婆は、
「夜の営みがないので、あなたは欲求不満の(かたまり)ですね」
「誰よりも美しく誰よりも淫乱」
「性の不満は美人を犯す」
そして、
「男にやってもらわないと、死ぬよ」
と弘子に宣言します。
この辺、確かに「桂ワールド」なんだけど…
ロマンポルノの一般観客は…
( ̄ω ̄)(ーωー)( ̄ω ̄)(ーω−)
なのでは…(老婆は男優だってすぐわかるし)
弘子の夫は検事です。
帰宅する夫を迎える弘子の場面。弘子がテレビを見ているところへ夫が帰宅。夫は新聞を広げ、弘子はビールの用意をします。夫が、つけたままのテレビを
「もったいない」
と言い、弘子が消します。なかなかリアルですね。
「明日から一週間泊り込みだ」
「一週間?」
「いつものことじゃないか」
仕事一途な夫と、それに不満な妻…。
次のシーンでは、弘子が夫の荷物をカバンに詰めています。ビニール袋に入ったままの下着(新品)をカバンに詰めるのは、
それはないやろ…(袋から出すでしょ、普通。女のスタッフおらへんのかな?)
と思ったものの、何よりも…
夫の(トランクス型)パンツを広げた弘子が欲情して、ベッドの夫の下半身に手を伸ばす…
これはないやろ…( ̄▽ ̄;)
例えば、男が、女の下着に欲情することはあっても、
女が男(しかも結婚して7年の夫)のパンツ見て欲情するか…???
男の幻想なのかなぁ…。
女性の方、どうですか?オバサンが、若い男のはくビキニ型パンツ見て欲情…ってのは、頭ではアリかな?とも思うけど…(;A´▽`A
この辺、微妙です。でも、未婚のピーター先生がこういう場面を書かれたのは…ただの妄想としか思えません(-_-;
これに対して、監督以下、スタッフが誰も異議を唱えなかったのだとすれば…
男って単純(バカ?)…
と思うしかないのですが…。皆さま、どうですか?
映画は、リチャード・ピータースなノリで、観客をオカルトティックな世界へ連れ出してくれますが…
一般観客(主に男性)は取り残されてないかな…?
と思いました。最後には、鳥かごに軍鶏(しゃも)だかチャボだか、茶色い鶏がカゴに入られられて、タロット占いの老婆が実は男…。弘子の淫らな写真と声のテープを、弘子を「いけにえ」にするのと交換条件に、弘子に返すと申し出る。弘子は申し出を受け入れ、老婆は鶏の首をナイフで切り落とす…。
この辺、もう、すっかり劇画の世界…。
当時、先生は劇画原作もなさってたそうで。
今ならウケルかもしれないけど…34年前です………( ̄O ̄;
映画館に「エロ」を求めて来た客は…引いてしまったのではないかと思うのですが…。
案の定…。
この映画、批評家は絶賛したそうですが…"(-""- )"
『多重映画脚本家 桂千穂』によると…。「秘 海女(あま)レポート 陰絶」(1975年)は、ロマン・ポルノの海女もの第一作。これを、先生は2日ほどで書いた。先生としては、
「つまらない映画ですよ。僕はもう、試写にも行かなかったです。呼んでくれなかったし。あの酷いホンを書いたライターだからって、向こうも頭に来てたんじゃないですか?」ところが、
興行的には、
大ヒット!!!
このように…、スタッフ内では評価の低かったものが、蓋を開けると大ヒット!\(●⌒∇⌒●)/ニャリーンというのが少なくなかったようで…。
この『色情妻 肉の欲望』はその逆。ピーター先生としては、DVDで『桂千穂コレクション』が出たら、真っ先に入れたい作品とのことです。「僕はこういう映画をつくったことを誇りに思っています」――。
シ━━(^(^(^(^(^(^ω^;lll)━━ン