哀しみのモーツァルト(2)

思えば、私と石堂先生の関係というのは不思議です。
シナリオ講座に通いながら、一度として講義を受けたことも、指導されたこともない。
知り合ったきっかけは、私が新人賞を受賞した映画コンクールの審査員で、応募作「ベィビーフェイス」に先生が、満点をくださったこと。
以来、どうして結婚式で主賓席に座り、スピーチをいただき、双子出産後もお付き合いいただくような関係に発展したのか、定かに覚えていません。
失礼ながら、お名前は存知ながら、先生の作品を、それほど見てもいませんでした。(田中好子主演 「黒い雨」も見ていないf(^ー^;)
ある程度、人生を振り返るくらい生きてみるとわかります。
長く親しく、付き合ったからと言って、お互いを良く思い、深く理解し合っているわけではない。
人生の中で、ほんの一瞬、すれ違っただけなのに、生涯、忘れられない関係がある。
私の独りよがりかもしれないし、多少、大袈裟ですが、私にとって石堂先生は、後者のような方です。
そして、当時、生後8ヶ月だった娘達が8歳8ヶ月になり、つまりは、8年ぶりに先生にお会いしました。
運命の、再会。
シ──(-ω-)(-ω-)(-ω-)──ン
8年間の空白は感じず、まぁ、電話でやりとりしてたこともあり、私は、いの一番に言いました。これだけのために、今日、此処へ来たと言っても過言ではない。
「先生、あの戯曲の選評を」
と、ICレコーダーをセッティング。
「え、何?」
「あの『Women』のホンが、どのように良いか…語ってください。録音しますので」
私の剣幕に戸惑う先生。3月、「近年、稀に見る傑作」と電話で言ってくださった時には、何が何やらわからず、過大な評価をいただきながら、言葉として記憶に残らず、非常に悔しい思いをした。
例え、それが先生の妄想に近い幻想でもかまわない。
石堂淑朗の言葉として、睡眠薬代わりに枕を抱きながら聞こう。
と思った。で、私の要望に答え、先生は語ってくれた。
「台詞が自然なんだよ。普通は力んだり、浮いたりするんだけど、この台詞は実にナチュラルで、モーツァルトそのもので、モーツァルトを背景に台詞を読むと最高ですよ」
何故、どうして、「モーツァルトそのもの」かは、私にはわからない。だが、しかし、
石堂淑朗がそう言ってるのだから、そうなんだよ。
でも…"(-""- )"
文句あるか( ̄へ  ̄ 凸
一人で葛藤する。
「本当?」
「本当」
「すごい?」
「すごい」
おのれ〜何、幼稚なやりとりやっとんねん(*`Д´)φ
「でも、私は、ショパンモーツァルトだと思って聴いてた人間なんですよ」
「そんなのいいよ、関係ないよ」
私が、ショパンモーツァルトだと思って聴いてた(4・16ブログ『モーツァルトショパン』参照)ことに、先生は愛想を尽かせたと思っていたのが、そうではないらしい、と気づき、私は活気づいた。
「今日は、カウンセリングに来たんですよ」
「何?」
「私が結婚したばかりの頃、先生が、『(夏目)漱石を再読しなさい』『「ハムレット」を暗誦しなさい』とか言われたんですよ」
「余計なことを( ̄▽ ̄;)」
「私は真面目だから試みようと思ったし、回り中みんな、『戯曲読め』とか『ビデオ見ろ』とか言うので、教養を積もうと努力したんですが…(-_-;簡単に言えば頭が悪い。私の頭の中には教養を蓄積するシステムがないとしか思えないんです」
長きに渉る悩みを、私は先生に打ち明けた。と…
モーツァルトも教養なかったよ。それで晩年、苦労した」
そして先生は、神童と言われ、天才の名を欲しいままにしたモーツァルトが、いかに教養がなかったかを延々と語られた。
低教養。
と言われた。
低能、無能
という言葉はあるが、
低教養
は初めて聞いた。
「無教養なもので」とは言っても「低教養なもので」とは言わない。
モーツァルトは低教養らしい。「すさまじい低教養」。
「低教養」なんて言ったら、私は何だか、大学まで出してくれた両親に申し訳ない気がした。
シ━━(^(^(^(^(^(^ω^;lll)━━ン
モーツァルトは父親から教養を与えられなかったんですか」
「そうなんだよ。そういう環境になかったんだね」
「…三輪家も、教養のかけらもない家でした」
「そうなんだよ」
「ガ━━(゚Д゚;)━━━ン!!」
つまるところ先生は、「教養のないのがコンプレックス」だった私を、
モーツァルトも教養なかったし)教養なんていいよ。
と慰められた。
これ…慰めになってないんですけど。
ヾ( ̄_ ̄ )/\( ̄ー ̄)/\(  ̄− ̄)ノ゛ドモモモ・・
「でも、先生は教養人だし、教養を重んじられてますよね」
と言うと…。
「教養を積むというのは難しいことでね。僕はフロベールが第一の師匠で、これの××××を原書で読み通したのが生涯の財産になったね」
とか言われたところへ、
「石堂さん、3時のおやつです〜」