演劇的空間。

これが、井上ひさしの言う「演劇的空間」なんだな、と思う。
それは、「舞台でしか作ることの出来ない空間や時間」のことで、劇作家とは、それまでになかったような新しい演劇的空間を作り出そうとして苦心する作家だと。
下北沢、小劇場楽園。サルとピストル第10回公演「嘘でもいいから恥らって…紅」http://www.geocities.jp/saru_pisu/
舞台とは、演劇とは、映画やテレビなどの「映像」とは違う。役者の台詞と芝居で話を紡いでいくのだが、生身の役者が勝負である。
密室劇のような「一幕物」が舞台の王道であり、役者と役者のぶつかり合いで話が進行する。「立った」芝居が求められ、芝居が「流れる」ことは許されない。舞台において、役者は「逃げも隠れも出来ない」と私は思う。舞台の脚本(=戯曲)は難しいのだと、私は何度もピーター先生から言われた。
映像に逃げることが出来ず、真の「芝居」を要求される。
この、サルとピストル、一緒に仕事するプロデューサーが制作協力している付き合いで、「ジュリエッタマシーン」「驚きの白さ」に続く3度目の観劇となる。
舞台上にはマットレスがひとつ。後は丸めた新聞紙が床に広がる。
毎度のことながら大道具も小道具もない。
経費節減と思いきや、これが、なかなかにニクイ演出なのである。
ジュリエッタマシーン」では、壁や柱に一面、包帯のようなガーゼが、「驚きの白さ」では、ぐしゃぐしゃの新聞紙が張り巡らされていた。大道具、小道具で具体的な場を設定すると、逆に世界が限られる。こんな、観客の想像力にゆだねる場面作り…は、お洒落であり、無限の世界を醸し出し、ニューヨーク仕込みなのかと思う。(作・演出・出演の三浦佑介は高校卒業後、ニューヨークに留学している)――マットレスがひとつに、後は床に丸められた新聞紙…なんて、いかにも、舞台ならでは。テレビや映画では成立不可ではないだろうか。

お話は…引退した「伝説のAV女優」と引きこもりの男との恋。二人は一緒に暮らしながら、秋人は元AV女優、涼子とセックス出来ない。
秋人は涼子が主演したAVビデオを見まくり、涼子は秋人に殴る蹴る…の暴力。それが、お互いの愛情表現。秋人の元彼女、ヒジコが秋人の部屋に転がり込み、3人の奇妙な共同生活が始まります。秋人はヒジコとセックスします。出来るんです。ヒジコは秋人が涼子に暴力を振るわれ、暴力を受け入れるのを覗き見しています。
舞台上のマットレスが効果的に使われます。
それは、伝説のAV女優、涼子が仕事していた時のAV撮影現場のベッド。そして、秋人が涼子の暴力を受け入れるベッド、秋人が元カノ、ヒジコとセックスするベッド…。「演劇的空間」なんですね。
ちょっと余談ですが、何故、涼子(芸名 葵ミク)が「伝説のAV女優」なのかと言うと…
「クロを食らう」で、20人の黒人とSEXした。
「おじいちゃんと泊まろう」で、80歳の老人を欲情させた。
「まみれシリーズ」で、スカトロ(糞尿)は勿論、「ミミズ」「納豆」「乾電池」…にまみれた。
個人的に面白かったです(^○^)/
で…。
伝説のAV女優、葵ミク=涼子を演じる女優、内海詩野が、何とも言えずいいなぁ〜と引き込まれました。
人目を引く美人ではない。例えるなら、洗いたての木綿のハンカチ。炊きたてのご飯。子供のお弁当におむすび握ってるのが似合いそうな母親…。でも、私は知っています。それが、「魔性の女」にすり替わることを…。
だからこそ、劇的なんです。
昼は淑女のように、夜は娼婦のように…。
それが男の理想なんですね。
実は…風俗で仕事してた友達がいました。
お色気ムンムンでもないし若くもなかったけど、店のNo.1でした。
彼女は優しくて、相手の話をとことん聞いてくれる人でした。「娼婦」って、太古の昔、女性がした最初の仕事です。性的欲望だけでなく、男性は心も満たされたいんですね。
…ミクは風俗嬢ではなかったけど、風俗嬢でも、No.1になれた人だと思いました。
内海詩野は、しみじみした温もりと奥行を感じさせる女優。
木綿のハンカチの、ふんわりした肌触り。炊きたてのご飯の、ほんのりした甘み…。付き合えば付き合うほど、コクと旨みが出て来るような。
こんなAV女優がいたらいいなぁ…。涼子のAVを撮る撮影現場、監督とADは掛け合い漫才みたいで芝居に緩急をつけます。そして、「君と一緒に居たいんだよね、好きなんだよね」と秋人に打ち明ける涼子は、秋人に暴力をふるいながら、秋人に殴られたい、蹴られたい…と望みます。
秋人とセックスしながら、秋人の本心は涼子にあると読んでる元カノのヒジコ。ドロドロになりかねない三角関係をサラ〜っと片付けます。実は…涼子は付き合っていたAV男優の恋人から暴力を受け、そこから涼子を救い出してくれたのが秋人でした。現在と過去…入り乱れる芝居を、演劇的空間が、からんだ糸をほどくように解決してくれます。隣で寝てた爺ちゃんも居たけど…。

「好き」と言うのはカンタンなようでいて、難しい。

軽いようでいて、誠に奥深い作品でした。

公演は6月6日まで。
6月5日 2:00、7:00
6月6日 1:00、5:00
当日3500円