「七つの顔」

桂千穂著「カルトムービー 日本映画1945→1980」の一番最初に紹介されてる映画です。
1946年、大映映画。
「映画の醍醐味をすべて凝縮!
カーチェイスに銃撃戦も
魅せる痛快推理劇」
著によると、当時日本はまだGHQの統治下にあり、日本刀を使用する時代劇製作は好ましくないという通達により、時代劇を作ることはできなかった。そこで現代劇を撮るしかなく、時代劇のスターだった片岡千恵蔵が脚本家の比佐芳武に相談し、比佐が、
「ではあんたの七つの顔を書こう」
と言って出来あがったのが本作とのこと。
最初は奇術師としてホールで華やかな奇術を披露する千恵蔵。
同ホールで轟(とどろき)夕起子演じる歌姫、清川みどりが連れ去られるという事件が起きてからは、私立探偵、多羅尾伴内(たらおばんない)としてみどりの前に現れ、事件解決を引き受けます。
ある時は占い師、ある時は片目の運転手、またある時は新聞記者…
変装を自在に操って、愉しませてくれます。
脚本を書いた比佐は、本作を書くにあたり、当時輸入され始めた外国映画を浴びるように観て、千恵蔵向きのストーリーを考えたそうです。
確かに、白黒映画ながら、カラーを思わせるようなお洒落で華やかな映像。
舞台上で連れ去られたみどりは、洋館のベッドで目覚めます。
仮面をつけた男女のやりとり…。
みどりがつけていた時価100万のネックレスのことで言い争いをしています。
おとなしくしていれば命までは奪わない…言葉の通り、みどりはネックレスを奪われたものの、無事に帰されます。
自宅のベッドで事情聴取を受けるみどり…。
ネックレスの持ち主、金田がネックレスの代償を「身体で払え」などとみどりに迫っているところへ千恵蔵扮する多羅尾伴内の登場です。
風采上がらないながら、親しみのこもる対応にみどりはほっ、とします。
世界の名探偵について語り合ったり、みどりが囚われた洋館について、
2階への階段は18段、6歩の石畳、3段の石段、砂利の道は22歩…
などと証言して、まるで江戸川乱歩の少年探偵団。
2人は兄妹らしく、仮面をつけた女の指には3つの真珠を組み合わせた指輪、車のナンバープレートまで記憶しています。
おいおい…(犯人がここまで証拠残さへんやろ)と思いますけど、これも伏線でした。
みどりの証言を千恵蔵はメモも取らずに復誦します。
金田が頼んだ元鬼刑事の探偵は、3日でその洋館を探し当てると宣言します。
ほどもなく、その洋館は見つかり、そこに住んでいる兄妹が容疑者となります。
ところが、ここで千恵蔵、
「2人の人格は犯罪から程遠い」
などと言ってのけます。
物的証拠が揃っている、と警察が言えば、
「物的証拠は犯罪を否定するもの」
つまり、
「証拠が揃いすぎている」
と言うのですね。
なるほど。
話はこれからなんですね。
…というわけで、
続きは次回…ではなくて、YouTubeで全編ご覧になれますので、どうぞ、お楽しみくださいませ。
ラスト、野暮ったいオッサン(多羅尾伴内)が、自らつけ髭や眉、鬘を取り変装を解除して…キリリとした二枚目スター、千恵蔵になるところは…見物です。
https://www.youtube.com/watch?v=GaShUgt6M5Q